依頼があれば24時間いつでも対応して、年に1、2日しか休まない。そんな過酷な働き方を続けた。その背景には「恐怖心から逃れたい」という気持ちがあったと江藤さんは振り返る。
「就職活動がうまくいかなかったことが頭からはなれなかったので、『自分は食いっぱぐれてしまうんじゃないか』みたいな恐怖心が、ずっとあったんです」
この仕事を断ったら、もう依頼がこないのではないか。やっと見つけた仕事を、絶対に失うわけにはいかない――。強迫観念にも近い思いを抱えながら、江藤さんは休みなく働き続けた。
ある日、朝起き上がれなくなり…
そんな日々を4年ほど続けたとき、彼女の心身に異変が起こる。
「ある日、朝起きられなくなったんですよ。何もする気が起きなくて、電話にも出られない。その日から、だんだんとテレビを観るのも本を読むのも、トイレに行くことさえつらくなってしまいました」
やらなければいけないことができない罪悪感で追い込まれ、最終的には「『このまま死ぬのかな』と思いながら、天井を眺めているしかできない状態」になった。病院に行くと、入院を勧められるほど重度のうつ病だと診断された。仕事を頑張りすぎたことで、燃え尽き症候群のような状態になっていたのだ。
仕事は休みたくない。けれど、パソコンの前に座っていられない。予定していた仕事もすべてキャンセルした。
しかし江藤さんは、自らがうつ病になったことを受け入れることができなかった。
「それまで、うつ病って心が弱い人がなるものだと思ってたので、まさか自分がなると思ってなかったんです」
病気に対する誤った認識があったことで、対応を間違えてしまったと江藤さんは振り返る。
うつ病の回復過程は「急性期」「回復期」「再発予防期」に分けられ、急性期においてはゆっくり休むことが鉄則だが、江藤さんは焦りから、「ゆっくり休む」ことができなかったのだ。
「『なにか生産性があることをしなきゃ』って焦りがあるから、少し元気が出たときに仕事のための勉強をしたり、気分転換に出かけたりするんです。でもそうすると余計に疲れて、落ち込んでしまって」
急性期の次にくる回復期では、調子のいいとき、悪いときを波のように上下しながら、少しずつ回復していく。だが、この時期にも落とし穴があった。
「調子がいい日が続いたから油断して、ちょっと仕事をやってみるんですけど、思ったように進まなくて。気が乗らないというよりは、身体が動かないんですよね。そうすると『あぁ、やっぱりまだ早かったんだ……』って気づいて、結構落ち込みましたね」
次第に江藤さんは、「このまま一生、こんな状態が続くのかもしれない」とさえ思うようになっていった。
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