ハーバード流「値上げで勝つ、負ける」戦略の差 ブランド力がなくても顧客満足度を高める方法

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バリューベース戦略2:補完製品を活用する

このような錯覚価値を訴求することに加え、補完製品を活用することも有力な方法です。補完製品とは、その存在が、他の製品・サービスのWTPを高めるもののことです。たとえば、プリンターとトナー、ガソリン車とガソリンスタンド、電気自動車と充電ステーションは補完関係にあります。充電ステーションが普及すれば、電気自動車の購入を後押しすることになります。またその拡充は、電気自動車のWTPを高めることにもつながります。

実はアップルは、この補完製品をうまく利用して高い価格を維持することに成功してきました。つまり、ハードウェアを高く売り、ソフトウェアを無料で提供するという戦略です。同社がiTunesを導入したとき、ソフトウェアが無料だっただけでなく、アップルは音楽のすべての価値を放棄しました。アップルは、音楽とアプリケーションの価格を低く抑え、iPod(2001年発売)、iPhone(2007年発売)、iPad(2010年発売)の販売で並外れたマージンを生み出しました。iPhoneの高価格が維持できたのは、製品単体での実力だけではなく、補完製品としてのソフトウェアの安さがハードの価格上昇を後押ししたのです。

ここから学ぶことができるのは、補完製品とは何かを識別することです。そして、その補完製品の価格を下げることで、当該製品・サービスのWTPを高め、価格を上げていくことが可能になるのです。これは必ずしも自社だけで完結することではありません。協力会社を含めてネットワークを構築していくことが求められるケースも多くみられます。

価値は価格に優先する

以上からわかるように、価値は価格に優先します。WTPを高めずに価格を上げれば、それは敗北への道となります。価格を上げるのであれば、まずはWTPを高めることが必要不可欠です。そうでなければ顧客は離反していきます。

しかし、WTPの向上はアップルのような突出した企業でないと不可能というわけではありません。錯覚価値の向上、補完製品の活用を通じてWTPを高めていくことが可能です。製品・サービス単体の実力を飛躍的に高めることでWTPを向上させていくことは逆に難しいでしょう。単体での実力ではなく、それ以外のところにWTPの向上、ブランド価値向上のヒントが数多く隠されているのです。

価格を上げて競争に勝つのは決して夢物語ではありません。そのためにはWTPという価値に注目し、それを高めるための戦略を練り上げていくことが求められます。このWTP戦略によって、価格を上げて競争に勝つことが実現できるのです。

より正確にいえば、戦略には2つのレバーがあり、その1つがこのWTPを高めるための活動にほかなりません。あとの1つは売却意思額(WTS)と呼ばれるものを引き下げることです。WTS戦略については次回の記事で解説します。

原田 勉 神戸大学大学院経営学研究科教授

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はらだ つとむ / Tsutomu Harada

1967年京都府生まれ。スタンフォード大学Ph.D.(経済学博士号)、神戸大学博士(経営学)。神戸大学経営学部助教授、科学技術庁科学技術政策研究所客員研究官、INSEAD客員研究員、ハーバード大学フルブライト研究員を経て、2005年より現職。専攻は、経営戦略、イノベーション経済学、イノベーション・マネジメントなど。大学での研究・教育に加え、企業の研修プログラムの企画なども精力的に行っている。主な著書に、『OODA Management(ウーダ・マネジメント)』(東洋経済新報社)、『イノベーション戦略の論理』(中央公論新社)、『OODALOOP(ウーダ・ループ)』(翻訳、東洋経済新報社)などがある。

 

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