埼玉・小川町メガソーラー、事業化困難で大誤算 経産省が大量の認定失効に踏み切った背景

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高い調達価格で電気を売れる権利を持ったまま運転を開始していない案件の中には、地元住民から反対の声が高いケースがある。国は「地域との共生」をうたい、2022年4月に経済産業、環境、国土交通、農林水産の4省のもとで再エネ発電設備の適正導入・管理の検討会を設けた。

背景には「地域で太陽光発電イコール悪という認識が広まってしまうと、脱炭素の取り組みが難しくなる」(環境省)という危機感があった。

小川メガソーラーはどうなる

FIT認定の失効を受け、小川エナジーはどうするのか。3月31日、小川エナジーに電話したところ、同社の加藤代表は「失効については聞いていない。環境アセス準備書に対する経産相の勧告を受け、昨年末まで調査を続け、評価書を出す準備を進めているところだ。事業を中止するという噂は何回も流されたが、そういう事実はない」と話した。

確かに、FIT認定失効イコール事業中止ではない。固定価格買い取り制度による売電のほかにも、電力の売り先企業を探して相対取引で売電するなど太陽光発電事業を行う方法はある。

しかし、さいたま小川メガソーラー事業の実現には、いくつものハードルがある。特に、住民団体「比企の太陽光発電を考える会」が事業の悪影響について調査を続け、小川町、埼玉県、国に事業化への懸念を伝えていることは大きい。3月21日には「雨水を浸透させ、蓄える能力」が事業地の土地にどのくらいあるかの調査が行われた。

調査により事業地の雨水浸透能力が高くないことが裏付けられた(写真:「比企の太陽光を考える会」提供)

「比企の太陽光発電を考える会」の依頼を受けて調査を実施したのは、法政大学エコ地域デザイン研究センターの神谷博・客員研究員。事業地内の4カ所でインフィルトロメーターという透明なプラスチック製の筒状の計測器を使い、地面の雨水浸透能力を測った。地面に置いた計測器に用意した水を入れ、筒の中を下がった水面の高さを30秒ごとに読み取っていった。

その結果、事業敷地の治水蓄雨高(単位面積当たりの雨をしみ込ませる能力)はソーラーパネルを設置した場合に37mmと算定された。「一戸建てが並び、敷地面積の半分は建物で、そのほかにも駐車スペースなどがあり、雨がしみ込む場所が少ない住宅地とほぼ同程度」(神谷研究員)。

パネルを設置せず、現状のままの林地の場合、治水蓄雨高は60mmと算定された。事業地は森林土壌が比較的薄く、全体として保水性の乏しい丘陵地として知られており、それが裏付けられた形だ。

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