感染が原因「胃・肝臓・子宮頸部」のがん徹底予防法 がんとなる手前の段階で食い止めることも可能

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しかし、現在は科学的な検証を経て、厚生労働省はHPVの積極的勧奨を再開していますし、データでは45歳までは効果があるとされています。自分自身の性的接触の度合いに応じて接種を検討しましょう。

ちなみにHPVは陰茎に感染したり、オーラルセックスによって咽頭に感染したりすることもあるため、海外には男性への接種が推奨されているところもあります。男性のHPVワクチン接種も、ぜひ検討してほしいと思います(現在は男性も接種の対象となっています)。

また子宮頸がんの早期発見には、「子宮頸がん検診」の定期的な受診がおすすめです。

具体的には、子宮頸部の組織をとって、悪い細胞がいないか確認する「子宮頸部細胞診」と呼ばれる検診を3年おきに受けることになります。少し検診と検診の間を空けたい場合は「子宮頸部細胞診」にプラスして、子宮頸がんのリスクとなるHPVを検出する「HPV検診」も一緒に受けるとよいでしょう。

知らないうちに肝臓に入り込む

「肝炎ウイルス」もHPVと同様に性行為によって感染するウイルスです。こちらは肝臓に入り込み、本人に気づかれないよう症状も出さず、肝臓で炎症を起こします。

肝臓で炎症が起きた跡地はまるでかさぶたや焼け跡のようで、こうした炎症が繰り返されるうちに、肝臓としての機能を失っていきます。やがてがんが発生する土壌が形成され、肝硬変と呼ばれる状態になってしまうことがあります。

肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれるだけあって、なかなか症状が出にくく、肝炎ウイルスは10年、20年かけて静かに、肝臓でボヤ騒ぎを起こし続ける非常にタチの悪いものといえます。

肝炎ウイルスの対策として、不特定多数との性的接触を避けることは重要ですが、とはいえ、いつ・誰が感染してもおかしくないウイルスです。100%自分は安心といえる対策はありません。

だからこそ、早期発見の対策として「肝炎ウイルス検診」が推奨されています。この検診は、肝炎ウイルスに感染しているかどうかを見る血液検査で、ほぼ「肝臓がん検診」といってよいでしょう。

(イラスト:『怖いけど面白い予防医学』より)
『怖いけど面白い予防医学 人生100年、「死ぬまで健康」を目指すには?』(世界文化社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

肝炎の治療も現在は進歩していて、たとえばC型肝炎であれば飲み薬だけで完結する場合もあります。肝炎ウイルス検診は自治体の補助などで、40歳以降なら無料で受けられる場合もありますので、ぜひ40歳を超えたら受けてほしいです。

多くの場合、がんは遺伝、運動習慣、生活習慣などの原因が複雑に絡み合っており、1対1対応で捉えることは難しいです。

しかし、今回紹介した感染症、そして感染症によって引き起こされるがんに関しては、非常に明瞭で、検査ではっきりと姿形を確認することができます。

防げるがんは防いでほしい――。だからこそ感染症に関わるがんはしっかりと検査をして、がんとなる手前の段階で食い止めてほしい、と心から思います。

森 勇磨 産業医・内科医

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もり ゆうま / Yuuma Mori

東海高校・神戸大学医学部医学科卒業。研修後、藤田医科大学病院の救急総合内科にて数えきれないほど「病状が悪化し、後悔の念に苦しむ患者や家族」と接する中で、正しい医療情報発信に対する社会課題を痛感する。
2020年2月より「予防医学ch/医師監修」をスタート。株式会社リコーの専属産業医として予防医学の実践を経験後、独立。Preventive Room株式会社を立ち上げ書籍やYouTubeでの情報発信のほかオンライン診療に完全対応した新時代のクリニック「ウチカラクリニック」を開設。著書に「40歳からの予防医学(ダイヤモンド社)」など。

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