トヨタが液体水素カローラでレースに挑む深い訳 川重、岩谷産業と組み、普及に向けた知見高める

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岩谷産業の津吉・水素本部長が続ける。

「実は水素のビジネスというのは、私の水素本部長時代には多分成熟できない。少なくとも2030~2040年までかかると思っています。じゃあそれまで何もしないのかと言ったら、それはだめだと思っていて、少しでも皆さんに水素を知っていただきたい。われわれは水素ステーションもやっていますが、あれも莫大な費用をかけているけれど、まったく儲かっていないんです。でも、やらないといけない。少しでも前にというモチベーションを積み上げていかないと途中で終わってしまう。そのためには、こうしたレースも含めて、とにかく水素の火を消さないことが大事で、その一環だと思っています」

水素社会という言葉が日本の将来を照らすものとして使われるようになって久しいが、実感として具体的な前進感は今ひとつ乏しいというのは否定できないところだ。おそらく川崎重工業も岩谷産業もそこには忸怩たる思いもあったのではないか。

レースのスピード感でアップデート

そこにモビリティの未来にマルチパスウェイという考え方で臨むトヨタが、水素エンジンというアイデアを、市販化を前提としたかたちで持ち込んできたのは、光明だったに違いない。しかもそれを、こうして世間に広くアピールできる可能性のあるモータースポーツの現場で、彼らをそして更に幅広い企業や自治体などを巻き込んでいくかたちで推進し出したことは、大きな刺激になっているはずだ。

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これは川崎重工業の山本・副本部長の言葉である。

「私たちの仕事は大量の水素を大きな船で運搬してくる。大量で、安定的にというものです。一方でこのモータースポーツの現場は、今回ガスから液体水素にというのもそうですがサイクルタイムがすごく短い。どんどんアップデートしていく。通常の私たちの仕事の進め方とはタイムスケールがすごく違うということを経験しています。そこでわれわれも知見を得られたというところです」

トヨタが使う「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」という言葉は、レースという場が高い速度域でも安心して走らせることができる絶対性能の追求に有利だということだけでなく、すぐその場で課題解決が求められ、結果が数字で明確化される現場でPDCAを高速かつ高効率に回していくのに最適な場だということを意味する。どうやらこの水素エンジン車によるスーパー耐久シリーズ参戦は、パートナー企業にも同じような強力な推進力をもたらしつつあるのかもしれない。

液体水素エンジンを積むGRカローラのデビュー戦となる富士24時間レースの決勝は、5月27~28日に行われる。

島下 泰久 モータージャーナリスト

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しました・やすひさ / Yasuhisa Shimashita

1972年生まれ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。走行性能からブランド論まで守備範囲は広い。著書に『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)。

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