人生順調だった3人兄弟が滑り落ちてつかんだ事 大事なのはどこに住むかではなく、どう暮らすか

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最初に異変が訪れたのは長男の子豚でした。なんと、社内結婚した一般職の妻が「子育てに向き合いたい」と言って仕事を辞めてしまったのです。専業主婦で暇を持て余すようになり、堅実だった妻は変わってしまいました。「吉祥寺に住みたいな」「娘は私立小学校に通わせたい」。浪費欲が止まりません。

いくら日本生命が高給とはいえ、限度があります。ピアノ、バレエ、ジャック幼児教育研究所。娘は見事に早実初等部に合格しましたが、家計は赤字寸前です。加えてアベノミクスと異次元金融緩和により都内の不動産価格は高騰。いまさら家賃が勿体なくなったから家を買おうと思っても、吉祥寺ではとても手が出ません。

学校に近い国分寺への引っ越しを妻に打診しますが、「嫌よ、私にだって友達付き合いがあるし、井の頭公園から離れるなんて」と聞く耳を持ちません。もし家を買っていれば、今頃数千万円の含み益を抱えて、毎月20万円を超える家賃の支出も資産形成になったのに――。いくら悔やんでも、もう後のまつりです。

かりそめの平穏はある日、前触れもなく崩壊

次男の子豚にも災難が訪れます。推薦で野球の名門高校に進学した息子が、投げ過ぎで肘を壊してしまったのです。勝利至上主義の弊害、高野連の犠牲者。野球少年から野球を取り上げて、一体何が残るというのでしょうか。居場所を失った水は低い方に流れ、夜な夜な川崎駅前でたむろするようになります。

次男の子豚は、昔から鷹揚な性格でした。「若い頃に多少ヤンチャしても、そのうち落ち着くさ」。そんな態度が、裏目に出ます。いや、次男は気づいていました。ただ、認めたくなかっただけなのです。仕事を言い訳に思春期の子供の心の変調から目を背け、家庭から、そして現実から逃げていたということを。

かりそめの平穏はある日、前触れもなく崩壊します。深夜の川崎警察署からの着信、取り乱す妻、家庭裁判所での審理――。少年法で保護される未成年とはいえ、犯した罪が消えてなくなることはありません。日曜日に多摩川緑地の野球場で親子2人、日が暮れるまでキャッチボールしていたあの頃にはもう戻れません。

三男の子豚は順調でした。タワマンの含み益は年を追うごとに右肩上がりで上昇。ミス青学ファイナリストの妻似の娘は、ひよこクラブの赤ちゃんモデルに選ばれるほどの愛くるしさ。週末、ららぽーと豊洲のドッグランで小型犬を走らせる一家の姿は、現代日本における成功の光景シーンとなる象徴シンボルでした。

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