2024年に「アメリカで内戦」が発生しかねない理由 「格下げ」された人々の癒やしがたい怨嗟や憎悪
しかし、著者は、それらが全世界を暴力の流砂に引きずり込む現実がある以上、一般のインフラ企業同様に、SNSもまた、規制を受け入れるべきと主張しています。問題はSNS企業が、固有のアルゴリズムを介して、途方もない権力を行使しているにもかかわらず、私企業であるがゆえに、ほぼ自主規制に委ねられている点です。著者はその点に激しい危機感を募らせ、警鐘を鳴らしています。
希望の物語はどこに
著者の語る世界およびアメリカの観察のほとんどは、控えめに言って心温まるものではありません。しかし、注意深く語られている希望の物語が一つあります。これはパンドラの箱の底から聞こえる「希望の声」に相当すると言ってよいでしょう。1980年代末、南アフリカのアパルトヘイト克服がそれです。ノーベル平和賞を受賞したマンデラとデクラーク2人の例をあげ、とりわけ相対的に注目されることの少ないデクラークの下した大英断に最上級の評価を与えています。
よく知られる通り、南アフリカは少数の白人が、多数の黒人を政治的に抑圧支配してきた体制でした。この構図からすれば、デクラークは抑圧を推進する権力サイドに身を置いてきたわけですから、かたやマンデラが「英雄」と称賛されるのに比して、デクラークは影が薄くならざるをえませんでした。
しかし、南アフリカを内戦の崩壊から救ったデクラークの現実主義を、マンデラにも劣ることのない傑出したリーダー像として見出しています。支配層の側から、反対勢力との協働のもとに新国家を形成する選択は、国家の破滅を避けるうえでの理想的モデルと見るわけです。実はこの南アフリカの事例は、混乱を極めるアメリカにおける一つの希望の雛形として作用していることにも気づかされます。
最終章では、民主主義の再建に伴う種々の活動が内戦を阻むために今なすべきこととして紹介されているのですが、そう聞くと、「なんだ、そんなことか」と拍子抜けするかもしれません。実際にAmazonのレヴューを見ると、それはあまりにもナイーヴだし、それができたら誰も苦労しないだろうというものも散見されます。しかし、それ以外に方法はないのだから仕方がない。私たちは白紙から世界を始めることなどできないからです。
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