2024年に「アメリカで内戦」が発生しかねない理由 「格下げ」された人々の癒やしがたい怨嗟や憎悪
その一つに、「アノクラシー」があります。アノクラシーとは、専制支配と民主主義の中間概念なのですが、複数の信頼度の高いデータ・セットと「ポリティ・インデックス」という指標を用いて、内戦の危険水域(魔の中間地帯)の所在が示されています。
もちろん、危険水域に至ったからと言って、すべての国や社会が内戦に突入するわけではありません。それは、河川の水位が一定以上に達したからと言って、常に洪水の被害がもたらされるわけではないのと同じです。
けれども、そこには内戦勃発を予期するうえで顕著なパターンが見出せると主張されています。これは、内戦危機の「急所」と言ってもよいポイントなのですが、いくつかあるうちの一つにあえて目を向けるならば、「格下げ」があります。
フィリピンやユーゴ、インド、ジョージアなどの例が取り上げられていますが、格下げとはある階層の政治社会的地位が、何の合理的理由もなく喪失される状態を指します。長い年月その土地に暮らしてきて、しかるべき地位や尊敬、権威のようなものを培ってきたのに、気づけば国外から異なる民族や宗教の人々が徐々に流入し、やがて人口比が逆転して孤立し、二級市民に甘んじるようになっていく。簡単に言えばそのようなことです。その状態が、内戦の発火点になる可能性がきわめて高いというのです。そのような人々を著者は「土着の民」と呼んでいます。
このような、内戦パターンにおける急所が、アメリカにおいても著しく見られるようになった。この点が著者の危惧の際たるポイントだと思います。実は、民主主義先進国においても、「土着の民」は多数存在しています。この観点からすれば、トランプがなぜあれほどまでに熱狂的支持を集めたのかが見えてきます。「格下げ」された人々の癒やしがたい怨嗟や憎悪は容易に暴力に転ずるからです。
危険な「仕掛人」たち
もう一つ、現代の特徴は、内戦への展開スピードのすさまじさです。
現れてわずか数年で議席獲得はおろか、時には政治権力中枢にまで一挙になだれ込んでいくこともめずらしくはない。その典型を著者はトランプ旋風の中に見出すわけですが、彼のような存在は、あらゆる内戦に一貫して作用していると指摘します。彼らは「暴力対決仕掛人」あるは「民族主義仕掛人」と呼ばれています。内戦の総合プロデューサーです。
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