CFO出身社長が有力企業で続々と誕生している訳 会計が得意であれば立派な経営者になれるのか

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CFOを経験した人がCEOやCOOになるのは、その企業の現況と近未来をにらんだうえでの意思決定であり、否定する気持ちは毛頭ない。ますます高度化、複雑化する経営環境において、財務知識で武装したエグゼクティブが経営の舵を取ることは時流に沿った動きと考えられる。

ただし、次の点は注意してもらいたい。オンラインの決算会見で見られるような無表情で情報のみを淡々と語る、言語学で言うところの「リポートトーク」(report-talk)だけを口にしていては、人の心を動かせない。相手の情緒や感情に働きかける「ラポートトーク」(rapport-talk)を心掛けなくてはならない。

財務に詳しくても、投資家だけの顔をうかがう株主重視経営色が強すぎる経営者は、魅力的な企業文化を生むことはできないだろう。そのような企業には、損得だけを考える人ばかりが集まり、組織に潤いがなくなる。AI(人工知能)が台頭し、社会、企業が大きく変わろうとしている時代だけに、再び「人とは何か」を熟考する人文的な思考を次世代の経営者に求めたい。CFOを卒業しても、相変わらずCFOのままで一皮むけない人はトップの器ではない。

「パーパス」はきれいごとにしか聞こえない

頭がいいと思われているトップが、広告代理店やその関連(出身)役員のアドバイスを鵜呑みにして創った、言葉遊びかと思えるような「パーパス」は、きれいごとにしか聞こえない。また、それを広告や広報だけでなく採用に使って自己満足しているような大企業が見られる。そこの社員(従業員)はしらけている。朝礼で、やる気のない声で社歌をうたい、社是をいやいや唱和していた面従腹背の「昭和の社員(従業員)」の気持ちと変わらない。

あの会社が(ライバル企業が)「パーパス」と言っているから当社もパーパスを、と考える横並び現象が横行している。いつまで経っても、(特に日本企業の)経営者は「経営流行語」(流行りの経営用語)を使いたがる。不思議でならない。その言葉に思考が縛られていることに気づかないのだろうか。

「パーパス」という言葉を他社が使えば、少なくとも、違うワード、フレーズを考えるぐらいでないといけない。他社と横並びで「経営流行語」を使わないことをパーパスにされてはいかがか。そのような思考、行動が、オリジナリティに富んだイノベーティブな企業になる第一歩といえよう。

だからこそ、「さすが、〇〇社のCEOは違う」と思われるようなオリジナリティに富んだ表現、行動を心掛けなくてはならないのではないか。社員(従業員)、顧客の心は、投資家の心を動かすより、はるかに難しい。財務諸表のように定型的ではない。

長田 貴仁 経営学者、経営評論家

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おさだ たかひと / Takahito Osada

経営学者(神戸大学博士)、ジャーナリスト、経営評論家、岡山商科大学大学客員教授。同志社大学卒業後、プレジデント社入社。早稲田大学大学院を経て神戸大学で博士(経営学)を取得。ニューヨーク駐在記者、ビジネス誌『プレジデント』副編集長・主任編集委員、神戸大学大学院経営学研究科准教授、岡山商科大学教授(経営学部長)、流通科学大学特任教授、事業構想大学院大学客員教授などを経て現職。日本大学大学院、明治学院大学大学院、多摩大学大学院などのMBAでも社会人を教えた。神戸大学MBA「加護野忠男論文賞」審査委員。

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