CFO出身社長が有力企業で続々と誕生している訳 会計が得意であれば立派な経営者になれるのか

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人心掌握に長けたリーダーシップを発揮した平井一夫氏は、ソニーの復活の象徴として賞賛された。同社は2008年度から4期連続の赤字に苦しみ、2011年度には過去最大となる約4567億円の純損失を出してしまった。ところが、2012年4月に平井氏が代表取締役社長兼CEOに就任してから、吉田憲一郎氏に引き継ぐ2018年までの間に業績を大幅に改善した。当時、CFOだった吉田氏は、この復活劇で平井氏の「女房役」として大きく貢献した。

そして、2020年に代表執行役会長兼社長CEOに就任した吉田氏は、2021年3月期連結決算で純利益1兆円を超えるほどまでに導き、ソニーグループは見事に再生した。2023年4月1日より社長職を取締役代表執行役副社長兼CFOから取締役代表執行役社長COO兼CFOに昇格する十時裕樹氏に譲り、取締役代表執行役会長CEOに専念する。十時氏の新役職名からわかるように、元(前)CFOではなく、本格的な「CFO社長」が誕生することになる。

ソニーグループの経営環境の変化に合わせるかのように経営者の顔も変わった。平井氏、吉田氏、十時氏の3人それぞれのパーソナリティを比較してみても明らかだ。平井氏は帰国子女で日英バイリンガルであったこともあり、海外でのプレゼンテーション、メディアとのインタビューでも、故・スティーブ・ジョブズ氏(アップル創業者)ばりのスター性を発揮していた。人当たりもいい「格好いいCEO」だった。

「ああ見えても、吉田君は厳しいよ」

一方、吉田氏は優しい口調で話す「温和な紳士」に見える。さすが、CEOになってからは、平井氏と同様、表に出る機会が増え、英語のプレゼンテーションも堂々とこなし、スター性も高まってきた感じがする。とはいえ、平井氏に比べると、いまだに華やかさは見劣りするものの、いい意味で誠実さを感じさせる。「温和な紳士」に見える吉田氏も社内では厳しい一面をのぞかせる。元CEOで吉田氏の上司だった出井伸之氏(2022年6月に逝去)に晩年インタビューしたとき、「ああ見えても、吉田君は厳しいよ」と話していた。いいかげんさを許さず、詰めに厳しいCFOの資質を備えていたようだ。

吉田氏は、EV事業でホンダと合弁会社を発足させ、半導体事業(イメージセンサー)で大胆な投資をするなど、大きな資金の流れを把握しているからこそできる「財務に詳しいトップ」の長所を証明した。言うまでもなく、その詳細を説明する「財務話法」はCEOになってからも生かされている。

次期社長就任が予定されている十時氏はどうか。吉田氏よりもさらに堅そうに見えるが、全社戦略の視点から理路整然と語る話し方にはそつがない。

CFOはその仕事柄、口から出てくる言葉には数字が多いせいか、感情の起伏があまり感じられない。いや、冷静さを装わざるをえない役職なのだ。CFOでいる限りは、人の心を動かす平井氏風の華麗なパフォーマンスよりも、合理性と精緻さに富んだ説明力が求められる。だから、CFOの仕事を熟知していない人の目には「地味な人」に映る。

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