CFO出身社長が有力企業で続々と誕生している訳 会計が得意であれば立派な経営者になれるのか

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決算会見では「地味な人」の雰囲気を漂わせていたCFOでも社長にまで上り詰めるような人は、なるほどと思わせるキャリアを積んでいる。十時氏もただの財務屋さんではない。イントレプレナー(Intrapreneur)である。イントレプレナーは「社内起業家」と訳されるが、十時氏の場合は、いったん、2001年にソニーを辞めてソニー銀行を創業したのだから、「グループ内起業家」という日本語がふさわしいのかもしれない。

吉田氏と十時氏は、インターネット通信子会社のソネット(現ソニーネットワークコミュニケーションズ)の社長と副社長だった2013年、平井氏から請われてソニー本体に呼び戻された。十時氏は吉田氏とともに、「平井政権」の戦略を立案してきた。吉田氏は十時氏に「外部環境を俯瞰した戦略的な視点を持った彼から私も多くの気付きと学びを得てきた」と敬意を表している。

他社のケースでは、CFOを経て2021年4月にNECの代表取締役執行役員社長兼CEOに就任した森田隆之氏も、外部環境を俯瞰した戦略的な視点を持ったエグゼクティブである。半導体事業のルネサステクノロジ(現ルネサスエレクトロニクス)への統合や、中国レノボ・グループとパソコンの合弁会社を設立するなど、M&A(合併・買収)で手腕を発揮してきた。

前CFOなのだが、それまで、経理、財務関連の業務に就いたことはない。社長になるための絶対条件としてCFOを経験させられたとみられる。新野隆取締役会長(前社長兼CEO)は「実行力がある『攻めのCFO』だ」と見ている。CFOと聞けば、「守り」のイメージが強かったが、「攻め」の経営を行ううえで、財務の経験や知識が求められるようになってきたといえよう。

稲盛和夫氏(京セラ創業者)は、母校の鹿児島大学工学部で行われた京セラ経営学講座(2002年12月11日、2003年7月7日)で、次のように語っている。

トップ自身が会計をわかっていなければならない

「経営者の中には、会計をわからないまま経営をしている方もいます。しかし、本来はトップ自身が会計をわかっていなければなりません。現代の複雑なグローバル経済の中では、経営の実態を正確に把握し、的確な経営判断を下さなくてはなりません。そのためには、会計原則、会計処理に精通していることが前提となるのです」

ここで筆者が問いたいのは、会計が得意であれば、立派な経営者になれるのか、という逆説的仮説だ。稲盛和夫氏は松下幸之助氏と同様に「経営の神様」と呼ばれるほどの名経営者として名を残し、2022年8月24日に逝去した。顔がはっきり見える経営者だった。オンライン会見で無表情な顔で数字を並べるだけのCFOとは言葉も違った。松下幸之助氏と同様に、経営だけでなく人の道について、核心を突く経営哲学、人生哲学をわかりやすい言葉で表現した。

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