葵の発言に呼応するように西垣が背筋を伸ばした。桐山少年は葵が言ったことの意味を捉えきれずに、二人の顔を交互に覗き込んだ。
「それって」
まず、桐山少年の脳裏に浮かんだのは父である健二の顔だった。頭の中で葵の横に立つ健二が西垣と入れ替わる。そこから導き出された答えを口にする。
「結婚するってこと?」
「そうね。一緒に住みたいと思ってる」
頭の中で、桐山少年と葵と西垣が、一つの家の中に入る。頭の中の健二は、一人ポツンと外
に追いやられる。
「お父さんはどうなるの?」
「そのことなんだけど……」
葵は桐山少年に、こう告げた。
健二と葵が別れたのは、お互いの性格が合わなかったことも大きな原因だったが、お互いに気になる人がいたことも原因の一つだった。健二と葵はよくよく話し合ってお互いのために別れることにした。でも、健二も葵も桐山少年と一緒に暮らしたいと思っている。だから、新しいお父さんと一か月暮らしてみた後、新しいお母さんとも一か月暮らしてみてほしい。その上で、健二と暮らすのか、葵と暮らすのかを決めてほしい、と。
「うん。わかった」
桐山少年は、それから一か月、葵と西垣と生活をともにした。
その次の日、今度は健二が連れて来た、見知らぬ女性と会うことになった。その日は日曜日で、健二が新しい車で迎えに来た。
健二に連れられて向かった先は、小さなケーキ屋さんだった。ショーケースに並ぶ、色とりどりのケーキたち。そのケーキを作っているのが今お付き合いしている人だと、健二に紹介された。名は木村楓。葵と比べると、背が一回り小さい。年は健二と一緒だと言ったが、少女のように幼く見える。
ユウキと一緒に歩いたら、姉弟に見られるかもな、と健二は笑った。
★
「君が泣いちゃダメだって誰が言ったの? お父さんとお母さんは、君の気持ちよりも自分達の都合を優先したんだよ。君が泣くのは当然だよ。君は悪くない。なんで君が泣いたことを後悔しなくちゃいけないの?」
桐山少年の話を聞いていた二美子は、目を真っ赤にして声を荒らげた。
「僕、わかったことがあるんだ」
「ありがとう、お姉ちゃん」
涙を流す二美子を見て、桐山少年はにっこりほほえんだ。
「でも、僕、ディズニーランドでお願いしたんだ。お父さんとお母さんが幸せになりますように、って」
「え?」
「僕、西垣さんや楓ちゃんと暮らしてみてわかったことがあるんだ」
「暮らしてみてわかったこと? え? なに?」
二美子は眉をひそめる。
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