(この子、ルールを知ったら、また泣いちゃうんじゃないかな)
そう思ってためらう二美子を尻目に、数は桐山少年の前に立ち、
「過去に戻ってどんな努力をしても、あなたのお父さんとお母さんが別れるという現実を変えることはできませんよ」
と、表情一つ変えることなく告げた。
(えー! この子、七歳だよ! そこはもう少しオブラートに包もうよ!)
だが、桐山少年は数の説明を聞いても取り乱すことなく、
「はい、大丈夫です」
と答えた。少年とは思えないほど、覚悟を決めた目をしている。
「え? え? じゃ、何のために過去に戻るつもりなの?」
二美子が身を乗り出して、桐山少年の顔を覗き込む。
「あの日、僕は泣いちゃダメだったんです」
「どういうこと?」
桐山少年の話には続きがあった。「あの日、僕は泣いちゃダメだったんです」
「どういうこと?」
桐山少年の話には続きがあった。
☆
ディズニーランドの日から、桐山少年は母親の葵と暮らしていた。離婚が成立したのは年が
明けてからだった。桐山少年はこのまま葵と暮らしていくのだと思っていた。
ある日葵は、桐山少年に会わせたい人がいると言って、都内のレストランで食事をすること
になった。現れたのは健二より年上に見える中肉中背の優しそうな男性だった。
「お母さん、西垣さんとお付き合いしているの」
「ユウキ君、こんばんは。はじめましてだね。おじさんの名前は、西垣誠といいます」
西垣はコートを脱ぐと、葵の脇に立つ桐山少年に向かって丁寧に頭を下げた。
「こんばんは。桐山ユウキです。はじめまして」
桐山少年も西垣に負けないくらい、丁寧な挨拶を返した。西垣は「ほう」と感心し、大きく
うなずいてみせた。
「ちゃんと挨拶ができるんだね。すばらしい。将来が楽しみだ」
「ありがとうございます」
挨拶が終わると、レストランのテーブルに案内された。
食事は滞りなく進んだ。桐山少年は西垣が沖縄や宮古島で三十キロを超えるロウニンアジを釣り上げたという話と写真を見て目を輝かせた。
「今度、一緒に連れて行ってあげるよ」
「本当に?」
「ああ、約束する」
「やったー」
桐山少年は無邪気に喜んだ。
「実はね、ユウキ」
それまで話を黙って聞いていた葵が切り出した。
「お母さん、西垣さんとお付き合いしているの」
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