高知東生「虚飾と暴力」を経て辿り着いた安息の地 明かせなかった本名、弱さを隠して暴力に走る

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高知東生 土竜
「弱さも、恥も、つらさも、苦しさもすべて自分の一部だとわかった」と語る高知東生さん(撮影:今井康一)

「芸能界デビューに際して、当初は事務所の社長から本名である大崎丈二でいこうと言われました。そのときに、僕の素性を話したのですが、一通り聞き終わると社長は、『やっぱり本名はやめようか。お前、テレビに出始めたら、な。何があるかわからないから』と言われたんですよね」

デビュー前夜に、当時の事務所の社長と交わした会話だと、高知東生さんは打ち明ける。なぜ素性を隠す必要があったのか? それは高知さんの父親が、高知県でも有数の暴力団組織の組長だったからだ。

父と思っていた人は実の父親ではなかった

高知さんが過去の自分と向き合い、自身の半生を包み隠さず描いた自伝的初小説集『土竜』が話題を呼んでいる(前編はコチラ)。

「今はこうしてお話しできますが、薬物依存症から立ち直るプログラムに出会う前は、まったく話すことができなかった」

その様子は、『土竜』の中に登場する「リラ」の編で、自身の過去をさらけ出すことに激しく抵抗する竜二(高知さんの本名である丈二がモチーフ)の姿からも想像できる。「まんまあの感じです」、そう高知さんは微苦笑する。

高知さんの父は有名暴力団組織の組長と先述したが、母親はその愛人だった。さらには、父は実の父親ではなく、母は真実を語ることなく、高知さんが17歳のときに突然、自ら運転する車でトンネルの壁に激突し自死した。母の死後、戸籍謄本を確認すると、本当の父親は徳島県にある暴力団組織の幹部であることがわかった。出自が、嘘のような本当の世界。ある意味では、フィクションが渦巻く芸能界とも馬が合ったのかもしれない。

冒頭の話には続きがある。

「事務所の社長に、『明徳義塾で野球やっていました』と伝えると、『甲子園には行ったのか?』と尋ね返されました。『行きましたけど、僕はお粗相をしてしまい、選手ではなく応援団長として参加しました』とありのままをお話ししたのですが、『それまでの大会までベンチにいたんだったら、 甲子園出場! それでいいんだよ』ということで、僕のプロフィールに『甲子園出場』が書き加えられました(苦笑)」

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