高知東生「虚飾と暴力」を経て辿り着いた安息の地 明かせなかった本名、弱さを隠して暴力に走る

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薬物依存から立ち直るプログラムに「12ステップ」という方法がある。アルコールや薬物、ギャンブル、買い物などさまざまな問題行動・行為からの回復に効果があるといい、高知さんの更生に手を貸したのが、「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんだった。田中さんが笑いながら振り返る。

「こんな頑固な人は見たことがないというくらい、最初はまったく心を開こうとしませんでした。『俺は絶対に話さない』の一点張りで、一切、自分の過去を開示しようとしなかった。だから私は、それ以上に強硬な姿勢を崩さないように接した(笑)。お互いにやり合えるぐらいの力がないと、依存症に苦しむ人のサポートはできないんです」

その話を隣で聞いていた高知さんは、懐かしむように「あまりにしつこいから、僕はストレスで帯状疱疹2回、めまい症3回になったくらい。そのことを告げると、『一緒に病院に行きましょう!』なんてケロっと言う。こういう人がいてくれたからこそ、自分を見つめ直すことができた」と口元をほころばせる。

母の真意がようやくわかった

事実、田中さんの提案で、高知さんは自身のルーツである高知県へ何度も通い、母の真意を理解することになる。

「おふくろに愛されていたということがわかったことで、より自分の内面と向き合えました。親父も地元では有名人だったので、図書館へ行き、昔の地元の新聞を洗いざらいチェックしました。 小説の中で詳細な情景描写ができたのは、結果的に田中さんとともに、ゆかりのある場所を巡ったことが大きい。たくさんの人に支えられたから、『土竜』を書くことができた」

よくぞ言ったと言わんばかりに、「そう! 『土竜』は、高知さん一人じゃなしえなかったんだから」。田中さんが声を弾ませる。『土竜』は、一人の男性の絶望と再生を、周りの理解者が支えていく物語でもあるのだ。

「自分巡りとでもいうのかな。そういう作業って、生きていくうえでとても大切なことだと思いました。おふくろは愛人でしたから親父に見捨てられ、自暴自棄になって自死したとずっと思っていた。でも、そうじゃなかったんですよね」

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