「男はつらいよ」の地方ロケで抱き続けた疑問 山田洋次監督が語る「男はつらいよ」の世界

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「親の面倒は子がみるのが当たり前だ。それが親子というものだ」なんていう道徳論は通用しないんじゃないかな。肉親にさえ温かく接することができないのは、何か理由があるはずです。若い人たちの生活が苦しいとか、親の面倒をみる余裕がないとかね。

マンション暮らしの人が増えていることも関係しているのではありませんか。3DKや4LDKといった「このくらいの広さの部屋があると幸せ」という価値基準をみんなが持ち始めていますが、その空間にはおじいちゃん、おばあちゃんが入っていない。

でも「その考え方は間違っている」といったって仕方がない。だから、一人になったおじいちゃんやおばあちゃんでも安心して暮らせるシステムを国や自治体が構築するべきなのです。年を取っても安心して暮らせる社会があれば、中高年だけでなく子ども世代にもゆとりが出てくると思います。

寅さんの晩年と日本の社会保障

――年中旅暮らしをしていた寅さんは、国民年金や国民健康保険には加入していなかったのでは。

第28作『男はつらいよ 寅次郎紙風船』(1981年公開)では、寅の兄弟分が病死したことを受け、とらやのみんなが寅のことを心配するシーンがあるんです。 

博:「兄さんの同業だとすると大変だな。健康保険だって払ってないだろうし」
さくら「病院の支払いもね」

おいちゃん:「他人事じゃないぞ、え、寅」

寅:「それだよ。もしおれが病気になったら、結局はさくらと博、おいちゃんとおばちゃんに迷惑をかけるってことになっちゃうもんなあ」


(『男はつらいよ 寅次郎紙風船』から一部抜粋)

この映画が封切られると、厚生省(当時)の課長さんが手紙をくれてね。「さくらさんの家を付帯住所にすれば寅さんも健康保険に加入できます。どうか寅さんを健康保険に入れてあげてください」って(笑)。

――それはいい話ですね。

ええ。「嬉しいご指摘です」と、すぐにお返事を書きました。真面目な国家公務員がいるんだなあ、公務員がこんな人ばっかりだったらなあ、と感動しました。

山田洋次監督インタビュー第1回

山田洋次監督インタビュー第3回

野中 大樹 東洋経済 記者

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のなか だいき / Daiki Nonaka

熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年に東洋経済新報社入社。週刊東洋経済編集部。

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井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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