中国経済「5%成長」担う新首相の軽すぎる存在感 李克強と李強、1字違いの新旧首相に大きな差

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そもそも李強氏は昨年10月末まで上海市のトップである党書記を務めていた。2022年3月末から2カ月にわたって続いた上海市のロックダウン(都市封鎖)を決めた張本人だ。

李強氏はウィズコロナへの移行により上海の経済を活性化することを模索してきたが、結局は習主席のゼロコロナ政策に従った。立身のために上海の市民生活と経済を犠牲にした、と言われかねない立場だけに、メッセ―ジの打ち出し方が難しい面もありそうだ。

李克強氏から李強氏へ経済政策の主導権が切り替わるまでに半年近いタイムラグがあり、それだけ景気対策などの発動も遅れた。この間、中国の経済政策にはエアポケットが生じた印象だ。

常務委員への就任以来、李強氏の肉声はほとんど伝わってこない。昨年11月4日に上海で国際輸入博覧会の開幕式に出席し、「中国の内需を拡大し、対外開放を継続する」と強調してみせたことくらいだ。3月5日には全人代で雲南省代表団の会合に参加して講話を行ったが、習主席をたたえ、政策面では政府活動報告をなぞる内容にとどまった。

習氏は文化大革命へ逆戻り?

ボスの習主席は、このところ「雷鋒精神」に繰り返し言及している。雷鋒は1962年に殉職した人民解放軍の模範兵で、文化大革命の時期に共産主義への献身の象徴とされた。

全人代が始まった3月5日は、まさに1963年に毛沢東が「雷鋒に学べ」運動を開始してから60周年目の記念日だった。そのため中国全土で小学生から軍人・警察官までがボランティア活動に動員された。改革開放路線が本当に堅持されるのか、やや危ぶまれる雰囲気だ。

「中国の内需を拡大し、対外開放を継続する」という李強氏のメッセージは政府活動報告に盛られた政策と一致しており、国際的にも望まれるものだ。李強氏は改革開放路線を推進し、経済政策の司令塔として存在感を発揮するのか、あくまで習主席の忠実な側近に徹するのか。その片鱗は3月13日の記者会見で見えるはずだ。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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