JR西「新型やくも」開発陣が明かすデザイン秘話 「銀河」の川西氏監修、性能・機能とのせめぎ合い

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性能面の仕様が固まり、2021年から273系の車両デザインの検討が始まった。これまでのJR西日本の特急用車両のデザインは、同社の車両部が車両メーカーと相談しながら決めてきた。しかし、過去の例を見ると、京阪神と城崎温泉を結ぶ特急「こうのとり」では2011年から287系が導入されているが、白を基調としたそのデザインが大きく話題を集めて観光に貢献しているという話は聞かない。2012年に京阪神と南紀を結ぶ特急「くろしお」として投入された287系も然りで、2017年に先頭車両の前面にパンダの顔のような装飾を施してようやく全国的な認知度を得た。

JR西日本では、特に山陰支社を中心に273系を「これに乗って山陰に行きたくなる車両」にしたいという思いがあった。単に新車を導入しただけでは不可能で、今までのイメージを一新させる必要があった。

デザインに「銀河」の川西氏を起用

そんなとき、「川西康之さんにお願いしてみてはどうだろう?」という声が社内で上がった。川西氏はえちごトキめき鉄道の豪華リゾート列車「雪月花」のほか、JR西日本の「WEST EXPRESS(ウエストエクスプレス)銀河」などの車両デザインで知られる。とくに「銀河」は地域と一体となった観光振興推進のために開発された列車で、「幅広い方々に気軽に鉄道の旅を楽しんでもらえる」と、JR西日本はそのデザインを高く評価していた。

デザイナー・川西康之氏
「WEST EXPRESS銀河」などの車両デザインを手がけた川西康之氏(記者撮影)

鉄道のデザイナーには自分の思いをデザインとして具現化するタイプの人もいる。しかし、川西氏はそうではない。たとえば、昨年手がけた近畿日本鉄道・結崎駅のリニューアルでは、事前に地域住民たちとの意見交換を何度も繰り返し、住民たちの思いを新しい結崎駅として具現化した。また、昨年3月に竣工した世界初の内航電気推進タンカー「あさひ」のデザインでは多くの乗組員に話を聞き、彼らが船内で快適に過ごせるように居住性を高めた(2022年6月13日付記事「売れっ子鉄道デザイナー、人気の鍵は『聞き上手』」)。

つまり、川西氏はさまざまな立場の人たちとコミュニケーションを取りながらその思いを1つにまとめてデザインを作り上げていくタイプのデザイナーであり、JR西日本は銀河のデザイン性もさることながら、川西氏のファシリテーターとしての能力も高く評価していた。そして、山陰の思いをデザインとして具現化できる人材として川西氏の起用が決まった。

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