JR西「新型やくも」開発陣が明かすデザイン秘話 「銀河」の川西氏監修、性能・機能とのせめぎ合い

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車内もさまざまなデザイン上の工夫が凝らされている。たとえば、273系は床下に振り子装置を搭載しているため、その分だけ天井が低い。窮屈感が出ないように側面を明るくして色合いで開放感を高めた。また、大型テーブルと緩やかな仕切りで作られたグループ向け座席を設置した。曲線で構成されたテーブルや仕切りは、どことなく「銀河」のデザインを感じさせる。しかし、振り子車両でありカーブでは通常の車両よりも傾くことから、銀河とまったく同じデザインというわけにはいかず、細部で調整を行っているという。

川西氏に273系のどこに注目してほしいかと聞くと、「座席のモケット」という答えが返ってきた。岡山駅にはJR四国の特急列車も乗り入れており、こちらもデザイン力を活かして快適な車内を実現している。負けるわけにはいかない。

273系車内モックアップ
新型やくも273系に設置されるグループ向け座席のモックアップ(写真:村上悠太)

ワークショップは2021年12月に続き、2022年1月、2月と合計3回行われた。川西氏はその過程で彼らの思いを体系化し、コンセプトとして明文化し、設計図やCGによるイメージ図のほか、30分の1の模型を作り、支社に持ち込んだ。参加者たちからデザイン案に対する改善要望点を聞き、車両設計上の制約も考慮しながら、最終案を決定。その後、長谷川一明社長にも説明を行い、晴れて車両デザインの承認を得た。

新車を機に山陰を盛り上げたい

5月20日に行われた決算説明会の席上、この時点で新型やくものデザインに川西氏が参加していることは発表されていなかった。長谷川社長に川西氏の参加について質問をしたところ、いったんは認めたものの、後日、JR西日本から、「まだ決まっていないが何らかの形で関わっていただくことになりそうだ」という回答があった。

それから5カ月経った10月20日、川西氏と近畿車両デザイン室が「デザイン監修」を行うと発表された。デザイナーとして存分に腕を振るった銀河とは違い、273系の場合は特急列車ということで、多くの点でJR西日本の標準仕様に準拠することが求められており、川西氏がデザインできる範囲が限られていたことや山陰地域の人たちの思いを川西氏がデザインとして具現化したという観点から、デザイン監修という位置付けになった。

最初の編成は2023年度に登場し、2024年春以降に営業運転を開始する予定だ。むろん、新しい車両が入っただけで観光が盛り上がるほど甘くはない。新型やくもの登場を機に、駅や沿線地域を盛り上げようと、山陰エリアの社員たちや川西氏がそのための施策を着々と練っている。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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