JR西「新型やくも」開発陣が明かすデザイン秘話 「銀河」の川西氏監修、性能・機能とのせめぎ合い
「山陰地区の利用者や市民の代表にお集まりいただき、実際の特急車内でも直接ヒアリングを実施したい」。川西氏はJR西日本にこんな要望を伝えた。しかし、コロナ禍という状況の中、多くの人との接触は避けるべきという判断から断念。その代わりに「山陰地区の幅広い社員に市民と社員の“一人二役”を徹底してもらうことにした」(川西氏)。
佐伯祥一山陰支社長が川西氏の新たな要望に応えた。「駅係員、乗務員、保線担当、間接部門などさまざまな部署を代表する社員が20人ほど集まった。若手とベテランの比率は4対1、男女比は3対1くらいだったかな。小さなお子様がいる社員もいて、幅広い属性の社員が集まった」(佐伯支社長)。
2021年12月、川西氏が鳥取県米子市にある山陰支社を訪れ、ワークショップが開催された。参加者を前に、川西氏が「現在のやくもの課題は何か」と尋ねると、実に率直な意見が次々と出された。「市民役の人からは臭い、古い、寝るしかない、酔うなど、社員としても使いにくい、乗務員室が寒いといった率直な意見が共有された」(川西氏)。こうした課題をどう改善すべきか、新型やくもに何を期待するか。参加者たちがみな思いを口にした。
「山陰らしい色」は何か
最も長い時間が割かれたのは、やくもは何色がふさわしいかという点だ。現行のピンクや国鉄色への愛着の意見も聞かれた。しかし、「とにかくイメージを変えたい、生まれ変わらせたい」「山陰らしい色にしたい」という熱意が圧倒的に上回った。
では、「山陰らしい色」とは何か。夕日が沈む宍道湖の色。たたら製鉄の色。大山夏祭りの篝火(かがりび)の色、石州瓦(赤瓦)の色……。いろいろな声が上がった。こうした声を川西氏は「やくもブロンズ」として集約した。「みんなの思いがこうやって1つになるのか」と、ワークショップの様子を見学していたJR西日本車両部のスタッフたちが感嘆した。
さらに彼らが驚いたのは、やくもブロンズの色を車両前面など窓付近の部分を除く全体に施したことだ。287系のように白を基調としてラインカラーで差別化するなら、やくもブロンズもラインカラーや窓付近の色として使われるはず。「このような思い切った塗り方は社内では考えられなかった」と、車両部車両課の若杉景祐氏が話した。
やくもブロンズは時間帯や季節の変化によって輝きを変えるメタリック塗装である。通常よりも塗装工程が多く、メンテナンスも大変だ。しかし、「山陰のためなら」と現場の社員たちも納得した。
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