「大丸別荘」社長の釈明に見えたヤバい会社の内幕 「会社の常識、社会の非常識」の典型的なケース
会社で法令違反が常態化していた場合、社員の多くがそれに麻痺し、疑問を感じなくなることがあります。人間には、「周囲の人と同じ行動をとるほうが安全だ」と判断する「多数派同調バイアス」があると言われます。「会社の常識が社会の非常識」となってしまっている企業で不正が蔓延してしまうのはある意味では当然ともいえるでしょう。
今回の大丸別荘の問題を一段と深刻にしたのが、衛生管理について県に虚偽報告していたことです。大丸別荘などに立ち寄った他県からの来訪者が、体調不良を訴えて医療機関を受診し、レジオネラ属菌が原因と判明。筑紫保健福祉環境事務所が昨年8月、訪問先の1つとして大丸別荘を検査したところ、大浴場で県条例の細則で定める基準値の約2倍に相当する菌が検出されたそうです。しかし、旅館側は湯の交換頻度や塩素注入は適正だと説明し、10月の自主検査でも菌は基準値以下だったと県に届け出ました。
隠蔽や虚偽報告にはさまざまなリスクがあります。まずは不祥事への直接の批判です。次に「不祥事隠し」がバレた場合、批判の矛先は企業の隠蔽体質にも向かいます。「不祥事を隠して批判を避けようとした卑怯さ」や「反省の姿勢が見えない」ことが、多くの人たちの心証を悪化させるからです。
また、もう1つの大きな問題がありました。彼らの虚偽報告によって水質改善が遅れ、結果として、さらに多くの客をレジオネラ属菌による体調不良を引き起こすリスクにさらしてしまったことです。もし大丸別荘が昨年8月の時点で事実関係を認め、衛生管理を改善していれば、11月の県の再検査で基準値の3700倍もの菌が検出されることはなかったでしょう。今回の問題は、大丸別荘がどのような形で発表しても強く批判されたと思いますが、最低限、正確な情報を早く報告し、開示するべきでした。
企業には会社と社会をつなぐ役割が必要
社会学者によると、会社も社会も「(同じ目的を持つ人々による)結合の一般概念」で、その起源は中国の「社」にさかのぼるそうです。その後、「会社」は「営利目的の組織」を意味する言葉として、「社会」はより生活をともにする共同体に近い意味に分化していきました。つまり、会社も社会も起源をたどれば、同じような意味だったということです。
私はジャーナリストですが、広報コンサルタントの仕事も兼任しています。私の場合、クライアント企業には「広報担当者の大きな役割の1つは会社と社会をつなぐことです」と伝えています。会社と社会をつなぐのは、メディアに記事を掲載してもらうことだけではありません。外部から仕入れた社会の常識を社内にフィードバックし、会社と社会のギャップが過度に広がらないよう埋めていくことでもあります。
「会社と社会の常識のギャップ」が広がれば、企業の法令違反や大きな不祥事につながります。企業が持続可能な経営を続けるためには、「会社と社会をつなげる役割」を担う人たちがどうしても必要なのです。
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