「意外なタッグ」東急不動産とJR東日本の思惑 提携により今後5年で1000億円の売り上げ創出めざす

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一方で、コストと手間を抑えつつ不動産の開発スピードをあげたい東急不動産HDにとっても、JR東日本との提携は渡りに船だった。

東急不動産の星野浩明取締役専務執行役員は、「現金の創出力が足りず、自社だけでは新たな不動産を開発するスピードが落ちてしまう。JR東日本と共同開発でリスク分散するとともに、数もこなせるようになる」と説明する。

2022年3月期の東急不動産HDの営業キャッシュフローは764億円だ。3大デベロッパーである三井不動産(同、2714億円)や三菱地所(同、2800億円)、住友不動産(同、1929億円)と比べれば、明らかに見劣りする水準だ。この差は、3大デベロッパーが持つ大規模な賃貸基盤がないことも大きい。

東急不動産HDは2025年度を最終年度とする中期経営計画の中で、営業利益1200億円(2021年度比で43.1%増)を目標として掲げている。その成長のけん引役と位置づけられるのが、再エネを始めとするインフラ・インダストリー事業と、ホテルやリゾートを主体とするウェルネス事業だ。いずれの事業も、営業利益を2021年度比で倍以上に拡大する構えだ。

JR東日本が持つ莫大な不動産が魅力

中でも、再エネ発電施設の開発には、2025年度までの5年間で約2400億円を投じる計画だ。ただ、都心を軸に事業展開してきた東急不動産HDにとって、再エネ発電施設を一から地方部で開発していくのは時間と手間がかかってしまう。JR東日本は地方部でも事業を展開しており、莫大な土地を抱えている。2022年3月末時点で、JR東日本が固定資産として持つ土地は2兆円を超える。

東急不動産HDが開発を進めている「渋谷駅桜丘口地区」(総延べ面積は約25.5万平方メートル)開発では、大型複合ビルが2棟建設される計画。写真は2023年11月竣工予定の「SHIBUYAタワー」(写真右)(記者撮影)

足元では、「渋谷駅桜丘口地区」での大規模再開発や「神宮前6丁目地区再開発」(いずれも東京都渋谷区)などの開発プロジェクトが進行中であり、東急不動産HDとしてもコストと手間を抑えながら、新しく再エネ発電施設などを展開し収益を積み上げたい。そうした点から、JR東日本との提携はメリットが大きいというわけだ。

「日本の国際競争力を高めるためには地方創生が不可欠だ。協業を通じてお互いの資産を活用し、再生エネルギーによる産業創出と、リゾートによる観光立国の実現を目指す」と、東急不動産HDの西川弘典社長も強調する。

ただ、東急不動産HDがどこまでJR東日本の資産を活用できるかは未知数だ。JR東日本の担当者も「遊休地の活用も案件によってベストなパートナーを選ぶ。東急不動産としか組まないわけではない」と強調する。千葉県船橋市での再開発などに続く、具体的な協業プロジェクトもまだ出せていない。

提携効果で1000億円創出と大風呂敷を広げてはいるものの、具体的なプロジェクトが限られるためか、今回の提携発表に株式市場は大きく反応しなかった。2月15日以降の東急不動産HDの株価は640円前後で推移しており、2022年12月前半の株価700円台の水準には及ばない。両社は今後5年間で実績を積み上げられるか、提携の真価が問われる。

佃 陸生 東洋経済 記者

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つくだ りくお / Rikuo Tsukuda

不動産業界担当。オフィスビル、マンションなどの住宅、商業施設、物流施設などを取材。REIT、再開発、CRE、データセンターにも関心。慶応義塾大学大学院法学研究科(政治学専攻)修了。2019年東洋経済新報社入社。過去に物流業界などを担当。

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