「意外なタッグ」東急不動産とJR東日本の思惑 提携により今後5年で1000億円の売り上げ創出めざす

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JR東日本の深澤祐二社長は、「コロナ禍で2年間にわたり当社は赤字だった。変革のスピードを上げるとともに、事業をレベルアップしなければならないという危機感を持っているが、自社のノウハウだけでは限界がある」と話す。

コロナ禍で鉄道の旅客需要が縮小する中、JR東日本は苦戦を強いられている。2022年3月期の営業損失は1539億円(2021年3月期は5203億円の営業損失)だった。

直近の運輸事業(2022年4〜12月期)も営業利益は254億円と、コロナ前(2019年4~12月期)比で91.9%も減っている。長期的にも人口減少による収益減が見込まれる運輸事業を支えるため、JR東日本が目下強化しているのが不動産事業だ。

その点、東急不動産HDは数多ある不動産デベロッパーの中でも最も相性の良いパートナーだ。東急不動産HDには、他の不動産デベロッパーよりも事業展開が進んでいる2つの強い領域があるからだ。

競合にない「再エネ」という強み

東急不動産HDが埼玉県東松山市で開発した発電施設。農作物の生産に十分な日射量が確保できる構造のため、太陽光パネルの下で米やブルーベリーなどが育てられる(記者撮影)

1つ目が、再生可能エネルギーの発電網だ。

東急不動産HDは全国86カ所で太陽光や風力、バイオマスなどの再エネ発電施設を保有・運営している。同社グループの再エネ発電施設(2023年1月末時点)の定格容量は1405メガワット。2023年1月には東急不動産HDが抱える全224施設の使用電力を100%再エネに切り替えている。

JR東日本は2030年度目標として、70万キロワットの再エネ電源の開発と、鉄道事業におけるCO2排出量の5割削減(2013年度比)を掲げる。再エネ発電施設を保有するとともに自社で発電施設を開発してきたノウハウがある東急不動産HDは、JR東日本がカーボンニュートラル(脱炭素)を達成するうえで重要なパートナーといえるだろう。両社は今後5年以内に、JR東日本が保有する遊休地などに、再エネ発電施設を約5カ所建設する計画だ。

両社はさらに、東急不動産HDが保有する再エネ発電施設を投資対象とした100億円規模のファンドも共同設立し、今後10年間で投資規模を約1000億円にまで拡大する構えだ。

東急不動産HDの強みの2つ目が、リゾート事業だ。東急不動産HDはホテル66施設(9173室)を運営するほか、19つのゴルフ場と7つのスキー場を抱えている。こうした施設と連携することで、JR東日本は鉄道輸送需要の拡大が狙える。今後は、東急不動産HDグループの運営するホテル会員向けに新幹線往復チケットがついた商品を開発するなど、連携を深めていく算段だ。

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