「Chat GPTが雇用を奪う」と考える人に欠けた視点 AIは世界をオートフォーメーション化しうるか

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日本で特に雇用の劣化が激しいのは、労働運動が低迷しているからです。欧米のようなストライキもないですし、オキュパイ・ウォール・ストリートのような社会運動もなかなか登場してこない。そうしたなかで、資本主義の現状に対して抜本的に変革を起こすような想像力も失われてきました。

しかし、最近、経済思想家の斎藤幸平さんのような若い論客たちが現れていますし、さらに彼らに触発されて、これまで日本の左派とは異なる豊かなビジョンをもって社会運動を行っている若者たちも増えてきました。今はまだ大きな存在とは言えないかもしれませんが、この動きに期待したいです。

AIやビッグテックに対抗するために必要なこと

いま雇用やビジネスの話で何が流行っているかというと、ここまで話してきたような「テクノロジーで世界が変わる」系のオートメーション論がやはり根強いように思います。しかしそれとは別の方向で社会を変えるビジョンを持つことが必要です。そのひとつに、「ポスト希少性社会」というビジョンが挙げられます。

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「希少性」について少し説明します。たとえば、土地や知財、それこそデジタルプラットフォームなど、人類全体でシェアすべき資源を大企業が所有して囲い込んで「希少性」を発生させ、賃料(レント)をとるのが現代の光景です。今後大切なのは、このように囲い込まれた希少性へのアクセスに追われるばかりでなく、別の社会を模索せよということです。

テクノロジーに希望を見る「オートメーション論」は、いわばモノをたくさん生産することで希少性を乗り越えようとする思想です。しかしながらここ1世紀、特に先進国では圧倒的に物質的に豊かになっているのに、ポスト希少性社会には移行していませんね。つまり「豊かさ」はモノの多さや技術だけで達成されるものではないということです。

ではどういう社会を構想するのか。「豊かさ」を、モノの多さや生産性ではなく、「アソシエーション」という、人間同士の自由で協働的な結びつきをキーワードに考えていく必要があるのだと考えています。

(構成/野村玲央)

佐々木 隆治 経済学者/立教大学経済学部准教授

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ささき りゅうじ / Ryuji Sasaki

一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。日本MEGA編集委員会編集委員。著書に、『マルクスの物象化論[新版]』(堀之内出版、2021年)、A New Introduction to Karl Marx, Palgrave Macmillan, 2021、『マルクス 資本論』(角川選書、2018年)、『カール・マルクス』(ちくま新書、2016年)、『私たちはなぜ働くのか』(旬報社、2012年)、『ベーシックインカムを問いなおす』(共編著、法律文化社、2019年)、『マルクスとエコロジー』(共編著、堀之内出版、2016年)など。

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