「Chat GPTが雇用を奪う」と考える人に欠けた視点 AIは世界をオートフォーメーション化しうるか

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もちろん、AI技術をはじめ、ICTに肯定的な要素がまったく存在しないというわけではありません。過去の垂直的・中央集権的なテクノロジーとは異なり、今のデジタル化の流れは水平的・分散的な産業のあり方を可能にする面を持っています。

しかし、結局何が起きているかを見てみると、GAFAのように、プラットフォームを支配する一部のビッグテックが莫大な利益を得て、ますます多くの富を独占するようになっています。先に述べたようなデータ独占やアルゴリズムの支配がますます一部の巨大資本の力を強化しているのです。

イーロン・マスクによるTwitter買収が意味するもの

結局、テクノロジーによって豊かになるというビジョンはまったく実現されていません。ICTによって経済的に豊かになってもいませんし、社会的に豊かになったのかも疑問です。

最近、Web3といって、ブロックチェーンなどの新たなテクノロジーを用いてより解放的なネット空間を実現することができるという話が流行っていますが、この手の話には既視感があります。インターネット勃興期のときにも、ネットでは社会的弱者も発信ができるようになり、民主的で解放的な空間が現れるという話が喧伝されていたからです。現実はどうでしょうか。

現代のSNSにおいて最も人々を引きつけるのは、“不安”や“怒り”です。そういうネガティブな感情を掻き立てたほうがSNSの閲覧時間を増やすことができ、それによってビッグテックは莫大な利益を得ることができるのです。そのため、サービスそのものにそういう言説や感情を助長する性質があり、社会的な分断をさらに深める装置になってしまっています。

つまり、単に経済的な格差が拡大するというだけでなく、社会的な“関係性の貧困”とでも呼ぶべき状態も生み出されてきたのです。たしかに、新たなテクノロジーは水平的で解放的な要素を含んではいますが、資本主義という大本の構造が変わらないかぎり、そのような形で機能することは難しいでしょう。

これまでビッグテックは、金融緩和のもとでの潤沢な投資に依存して、急成長してきました。そのなかで、さらに投資額を集めるためにどんどん新たなプロジェクトを立ち上げ、その革新性をアピールしてきたのです。デヴィッド・グレーバーが指摘する「ブルシット・ジョブ」の増殖は、このような資本主義の金融化とデジタル化の融合の結果でもあったと言えるでしょう。

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