BMWの「顔」が迷走して見えるホントのところ キドニーグリルの形状変化に見る戦略の意図

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同じ2022年には3シリーズがマイナーチェンジを実施しているが、インパネやセンターコンソール周辺が一新したのに対し、エクステリアはあまり手を入れておらず、グリルの大きさもほとんど変わらない。

さらに今年1月にアメリカ・ラスベガスで開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で発表されたコンセプトカー「BMW i Vision Dee」のキドニーグリルは、高さを抑える代わりに左右が車端に達するほど横長になり、内部にLEDのヘッドランプが斜めに入っている。

BMW i Vision Dee(写真:BMW)

1950年代に少量が生産されたオープンボディのスポーツカー「507」を思わせるが、ヘッドランプをグリルの中に入れたので、かつてゼネラルモーターズのブランドとして存在したポンテアックの「GTO」や「ファイヤーバード」にも似ている。

BMW 507は1950年代のスポーツカー(写真:BMW)

同車のデザインについてBMWでは、「デジタル体験とBMWブランドのDNAを伝えることにフォーカスするために、余分な要素をそぎ落とし、意図的に簡素化した」とアナウンスしている。

たしかにフロントマスクはシンプルであり、シルエットはオーソドックスな3ボックススタイルで、サイドウインドー後端の「ホフマイスター・キンク」も受け継がれている。グリルの大型化の動きに拒絶感を抱いていたユーザーは、BMW i Vision Deeのデザインを見て、ホッと胸をなで下ろしたのではないだろうか。

「統一すること」が難しい時代へ

一連の動きを見て、「BMWは迷っている」と思う人もいるだろう。しかし筆者は、欧米以外のマーケットの伸長、電動化や自動化といった流れの中で、多様化を進めていく方向に切り替えたのではないかと考えている。

BMWの宿命のライバルであるメルセデス・ベンツも、ラグジュアリーセダンの「Sクラス」と同じクラスの電気自動車「EQS」とでは、グリルだけでなくプロポーションも違う。ところが同じ電気自動車でも、エントリークラスの「EQA」「EQB」は同クラスのエンジン車と基本骨格が共通だ。

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ドイツの自動車ブランドはこれまで、かたくなに自身の顔や形を統一してきた。それがアイデンティティの確立につながったことは事実である。でも、自動車を取り巻く状況の激変を前にして、「すべてを統一することは難しい」と感じているのではないだろうか。

カーデザインに興味がある1人として、新しい造形の提案は歓迎できることである。もちろん個々の車種についての良しあしは主張すべきだと思うが、次はどのようにキドニーグリルを料理してくるか、個人的に注目している。

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森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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