植田氏はマクロ経済学の分野で極めて優れたバックグラウンドを持つ。また2005年まで日銀審議委員を務めた後も、日銀主催の会議に登壇するなど、日銀との関係が深い有識者として知られている。
一方、2008年のリーマンショックを経て、各国の中銀において大規模な量的緩和政策が実現、日銀も2%インフレ目標にコミットするなど、状況は変わっている。同氏の考え方も、状況に応じて変化している部分が多いのではないか。
今後、新執行部では、現行の金融緩和の枠組みについて「効果と副作用の比較衡量」が改めて行われるだろう。副作用の軽減がどの程度必要かという点については、これまで黒田体制の緩和政策に強く携わってきた内田真一氏(次期副総裁)などとの検討を経て、植田次期総裁を中心に判断するのだろう。
この副作用などについては議論が分かれる部分もあり、「より中立の立場」で総裁として判断していく場面が増えそうだ。新執行部のメンバーはまったく異なるものの、直前まで次期総裁の本命とされていた日銀出身の雨宮正佳氏が昇格するケースと、政策志向は似てくるのではないか。
市場の思惑で円高が進む場面が増える可能性
また、海外経済の減速リスクが高まる中で、国内では賃金上昇を伴う幅広いインフレが広がり、2%インフレの実現可能性が高まるかどうかも、金融政策の判断により大きく影響するだろう。
黒田総裁を中心とした現執行部は、「2%インフレに整合的な賃金上昇率」として「3%」(定期昇給分を除く)を意識しているとみられる。もし新執行部が同様の考えを踏襲すれば、10年金利のターゲット撤廃などの引き締め開始が、早々に行われる可能性は高くないとみられる。
この場合、黒田体制の成果を新執行部がそのまま引き継ぐことで、経済正常化(インフレの安定と完全雇用の定着)が実現する可能性は、より高まるだろう。
一方、もし新執行部の判断基準が現執行部と異なるときはどうか。その場合は、2023年の夏場にも、10年金利ターゲットの撤廃など、緩和修正が前倒しになる可能性がある。
現状では、植田氏など新執行部の金融政策に関する考え方は不確実なことが多い。あえて言えば、2%インフレ実現と労働市場改善を重視してきた黒田総裁と比べると、金融市場では「新執行部はバランス重視型で緩和の早期修正に踏み出すのではないか」という思惑が意識されやすいのではないか。
このため、筆者は為替市場については、2023年央までに円高が進む場面が増えそうだと考えている。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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