草彅剛「罠の戦争」"ライト化"しても評価される訳 「復讐シリーズ」は"国民的ドラマ"を意識した?

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もともと「復讐シリーズ」の3作とも、ドラマのはじまりに、淡々としながらも妙に心をざわつかせるナレーションで前回までのあらすじを語るようなとっつきやすさがあり、間口の広いエンタメであることは変わっていない。

ライト化したといっても、草彅がときどき鋭いナイフのような瞳になったり、口の片端を微妙にあげて、悔しさや憎悪をにじませたりするところは健在だ。

草彅は韓国のパク・チャヌク監督の復讐3部作、『復讐者に憐れみを』(2002年)、『オールド・ボーイ』(2003年)、『親切なクムジャさん』(2005年)の『復讐者に~』を見てソン・ガンホを好きになったと語っていた(『キネマ旬報』2022年8月上旬号)。

おそらくカンテレの「復讐シリーズ」は、これらを意識していたに違いない(『銭の〜』は韓国ドラマが原作)。それが、6年の間が空いたら、そういう表情が前2作よりも浮いてしまうほど、ライトテイストに変わった。

なぜそうなったのかといえば、この数年の世の中の変化が影響しているのだろう。

天災、コロナ禍、不況が重なり、しんどいものが受け入れられなくなっている。表現のコンプライアンスが厳しくなっている。テレビ離れも手伝って制作予算が下がっている。コロナ禍によって制作状況が変化している。

そして、テレビの楽しみ方が変化している(SNSでツッコめる即時性が人気)……等々、時代が変わりニーズが変わったため、『罠の戦争』も、『ドクターX』『半沢直樹』『コンフィデンスマンJP』のようなライトかつSNSでツッコミやすい逆転劇路線に寄せたに違いない。

草彅剛は“光の調節”を行っている

興味深いのは、草彅剛が、韓国ノワールのようなものでもライト路線でも、どちらも見事にハマって見えることだ。

もしかしたら草彅は、韓国ノワール的な重厚な雰囲気をライトに見せて、ライト過ぎるドラマに少し重しを乗せて、とバランスを巧く取っているのではないだろうかとすら思えてくる。シリアスな作品では触ると怪我しそうな鋭さを放ち、バラエティーやCMでは道化に徹して親しみやすく、表現が幅広い。

大河『青天を衝け』では、将軍として輝き過ぎるのであえてその輝きを消そうとしている、というエピソードがあったが、草彅自体が常にその場の雰囲気に合わせて“光の調節”を行っているように感じる。

ほんとうの「草彅剛」はどういう人なのだろう。先日、『さんまのまんま新春SP』でギターの弾き語りをしていたときの表情が、演技ではあまり見ないもので、もしかしてこれが素なのかなとも思ったりもしたのだが、これもまた、ギターを弾く男の演技だったのかもしれない。まったく草彅剛はその場の最適解を熟知している。

『罠の戦争』は前2作と違って、草彅の役は家庭、子どもを持つ父である。家族や若い後輩たちを守るために戦う、そういう役を演じるようになったわけだが、それもまた実に自然でなんら違和感がないのである。

木俣 冬 コラムニスト

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きまた ふゆ / Fuyu Kimata

東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。

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