「牛肉=若いほうがおいしい」という日本人の誤解 食肉の世界に広がる「ヴィンテージ」という発想

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「ヴィンテージ」という言葉には、年代もの、というイメージがありますが、完成度が高い、古くて上質な、という意味もあります。その意味を踏まえると、肉が本当に美味しくなるまで丁寧に優しく育てて、食べごろを見極めて出荷する肉こそ「ヴィンテージビーフ」と呼ぶのだと、肉おじさんは思うのです。

農家の自家使用や加工肉となることが多く、安く取引されてしまっていた経産牛が、輸入牛でも国産牛でもその価値を見出され、お肉として評価されることはとてもいいことだと思います。が、特に和牛の経産牛は、子牛を産むために育てられた牛で、副産物として食肉となっているので、本質的にはちょっと違うとーー。

特産松阪牛はヴィンテージビーフ向き?

肉おじさん的には、和牛の40カ月以上肥育のメス牛で、できれば420kg以下の肉をヴィンテージビーフと認めたいところ。この条件に合うのは、肥育期間38カ月以上の特産松阪牛未経産のメス牛となります。特産松阪牛は、超有名なブランドなので当然ですが、効率だけではなく、しっかり食べごろを見極め、食味にこだわったお肉を提供しているから特別に凄いのです!

また、かなりマニアックですが、兵庫県但馬地区で但馬牛を育てている「田中畜産」の和牛にも注目しています。牛を提供する繁殖農家なのですが、経産牛を肉にする6〜8カ月前に放牧して仕上げて、自分たちでお肉をカットして販売しています。

ここでは、母牛に感謝を込めて、経産牛を“敬産牛”と呼んでいます。そして、なんと昨年の夏、43カ月肥育の去勢牛のお肉の販売もしました小さい頃風をひいて子牛市場に出せなかったオス牛を大事に育て、「この時期だ!」と肉にしたそうです。田中畜産の肉はいつでも入手できるものではありませんが、牛に対する姿勢が素晴らしいと思っています。

そしてもう1つ知ってほしい農家が、青森県鯵ヶ沢の「アビタニアジャージーファーム」。乳牛のジャージー牛のオス牛は、乳を出さないのですぐに処分されることが多いのですが、この牧場では5年以上しっかり肥育してお肉として出荷しています。ジャージー牛のお肉も、味が濃く、まろやかなうま味もあって美味しい! これもヴィンテージビーフと言ってもいいと思います。

ヴィンテージビーフについてはまだ明確な定義のようなものはまだ確立されていませんが、日本でも食べごろを見極めて出荷する長期飼育の牛の肉について、焼肉店やレストランが肥育年を表示することで、注目されるようになりました。

経産牛や乳牛の価値を認め、食肉として美味しくなるように育て、出荷するーー。サステナビリティが注目される昨今、ヴィンテージビーフという発想は、注目される価値観ではないでしょうか。

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