元徴用工問題のボールは韓国から日本に移った 外交が韓国司法から主導権を奪い返せるか
韓国政府には、大法院で新たな判決が出る前に行政府主導で包括的に解決するとともに、日本側から何らかの対応を引き出そうという狙いもあるのではないか。
大法院は今後も同じ論理で元徴用工に対する損害賠償を認めることになるだろう。そうなると日本政府や企業は拒否するしかない。同じことの繰り返しが続く。
しかし、判決前であれば司法の判断に受動的に対応するのではなく、両国の行政府が話し合って打開策を見出すことが可能になる。実際、外交部幹部は韓国の国会で「韓国政府の対応に対して、日本の対応措置がなければ協議する必要はない」などと発言しており、これからは日本側の対応が重要になりそうだ。
ここで問題になるのは、韓国の対応をどこまで信じられるのかという問題だ。
岸田首相は慰安婦合意を反故にされた当事者
尹錫悦大統領が日韓関係改善に本気なことは自民党のタカ派議員でも理解している。しかし、日本側には「政権が代わってもこの政策は維持されるのか」という懸念は強い。
2015年、保守系の朴槿恵(パク・クネ)大統領の下で従軍慰安婦についての合意が実現した。ところが大統領が進歩系の文在寅氏に交代すると、「国民世論の理解が得られていない」などという理由であっさりと反故にされてしまった。
この時、合意内容を韓国外相とともに記者会見で発表したのが、当時外相だった岸田文雄首相だ。同じ誤りを繰り返すわけにはいかず、岸田首相が日韓関係についてはことさら慎重な対応をしているのも頷ける。
事実、最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は、政府の対応を「国民の常識とかけ離れた反民族的で、反歴史的な態度だ」と強い調子で批判しており、保守勢力と進歩勢力の対立は以前にも増して激しくなっている。
しかし、韓国の次期大統領選(2027年予定)までにすべてを決着させてしまえば、政権交代を気にする必要はなくなる。韓国企業とともに日本企業が自発的に財団に寄付し、係争中の元徴用工に渡すような対応が実現すれば、政権交代で反故にすることもできなくなる。
それは同時に元徴用工問題についての主導権を韓国司法の手から外交の世界に引き戻すことにもなる。
日韓の間には元徴用工問題に加えて、韓国側が強く反発している半導体素材などの輸出規制問題や、韓国が一方的に終了を通告し、その後「終了通知の効力停止」を宣言したまま中途半端な状態となっている軍事情報包括保護協定(GSOMIA)問題も残っている。
さらに視野を広げると、ウクライナ戦争の余波で北東アジア地域でも、中国による軍事的脅威や北朝鮮の核の脅威が現実味を持ってきている。さらに世界経済が低迷し、各国が自国の利益追求を強める時代を迎えつつある。そんなときに日韓という中規模国家が長期間、足を引っ張り合っている場合ではない。
尹錫悦大統領が思い切って踏み出した今、次は岸田首相の番だろう。
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