「親の認知症を認めない」50代娘に見える深層心理 家族の異変を察知する「会話力」の身に付け方

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私は娘さんに、「お母さんの認知機能のことで、医師に何か言われたことはありますか?」と聞くと、「はっきりとは聞いたことがないけれど、おそらく認知症だと思います」と言います。ところが、その後に続けるのが「でも母は、全然大丈夫です」という言葉。「今日はたまたま寝起きで、ぼーっとしていただけだと思います」と話す娘さんは、心のどこかで母親の認知症を疑ってはいるものの、目の前で実際に起こっている母親の言動が「認知症によって起こっている」とは認められないし、認めたくないというふうに見えました。

しかしその後、母親が複数の薬の管理を自分でするのが難しくなっていること、また1人で通院するのが難しくなってきている現実を認めざるを得ない状況が続き、今は訪問診療の選択肢を考え始めています。

在宅医の仕事をしていると、親に「いつまでも元気でいてほしい」と思うがあまり、親の老いを受け入れられない娘さんや息子さんの姿をしばしば目にします。無意識のうちに、老いを否定したい気持ちが強くなり、目の前にある現実を受け入れられないのです。

でも、その人を大切に思うなら、まずは老いという現実を認め、受け入れることが大切です。老いを受け入れることで、老化によって起こるさまざまな変化について、早い段階で気づくことができる場合もあります。

初期の認知症はわかりにくい

例えば認知症。実は認知症の初期症状は、私たち医師も気づけないほど、わかりにくいものです。認知症というと記憶や認知力の低下が見られると思われていますが、アルツハイマー型認知症の初期では、違和感なく会話ができます。診察の際に、こちらが記憶力を確かめようと思って質問しても、上手に辻褄を合わせて回答したり、うまくごまかしたりできるため、同居する家族からの情報がないと見過ごしてしまいます。

ましてや家族ともなれば、「まさかうちの親がそんなはずはない」という思いが勝ってしまい、無意識のうちに安心材料を探しては、なかったことにしてしまう場合が少なくないのです。

家族が「うちの親は大丈夫」と思って接することで、実際に親が直面している老化の悩みや頼みごとを言い出しにくくなることもあります。老化を認めず、「まだまだ元気なんだから」と信じて叱咤激励することが、かえって親を傷つけることにもなりかねません。

こうした事態を防ぐには、これまでと変わったことがないか“疑う”姿勢を持つことです。会話をしていて「あれ?」と引っかかることがあったら、例えば「昨日はどこに行ったの?」「この前、病院に行ったのはいつだっけ?」など、角度を変えていろいろと質問してみるといいかもしれません。

こちらの質問に答えようとせずにごまかしたり、相槌を打ったりすることが続くと要注意。不安を感じたら、かかりつけ医や最寄りの地域包括支援センターに相談してみることをお勧めします。「あれ?」という気づきが早いほど、病気の早期発見や早期治療につながり、適切なケアを受けられる可能性も高まります。大切なのは、自分が「あれ?」と思った気持ちを、自分で消してしまわないことです。

老いによって脳の機能が低下すれば、理解力が下がります。1人で通院できていても、外来で医師や看護師から説明を受けたとき、以前より話の内容が理解できないという場合もあります。また身体機能の低下から、少し前までは難なくできていた動作が億劫になったり、家事や作業に時間がかかるようになったりしてきます。

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