こうした困りごとを含めて、日常生活の状況を把握したいと思ったら、聞き方を工夫してみましょう。まずは、1つの回答に対して、「なんで?」や「どうして?」を意識的に繰り返してみる。
例えば、トイレットペーパーが切れているのに買ってきていなかったら、「買ってこないとダメじゃない」「私が買ってこようか?」の前に、「どうしたの?」と聞いてみる。親が「時間がなかったから」と答えたとしても、そこで終わらずに「買い物に行くのがしんどくなってない?」「本当は誰かに頼みたかったりする?」などと聞いてみる。そこで出てくる答えに、意外な困りごとが潜んでいる可能性もあります。
これは私が医師として診察で生活の状況を確認するときにも心がけていることです。
角度を変えて質問してみる
患者さんに「ご飯はちゃんと食べていますか?」と聞くときは、本人が「食べています」と答えても、そこで終わるのではなく、「何を食べていますか?」「誰が作っていますか?」「何品ぐらい作っていますか?」など、細かく質問を重ねます。1つの回答だけでわかることは限られていて、角度を変えて掘り下げないと、状況がわからないことがよくあるからです。
もちろん、親子であまり細かい質問をすると、本人が怒ってしまったり、真面目に答えようとしなかったりと、コミュニケーションがうまく進まない場面も出てきます。そんなときは、第三者を介して状況を把握するのも1つです。親のかかりつけ医や看護師などに、何か変わってきたことがないか、困りごとが出てきてないかを聞いてみるとか、です。すでに介護保険サービスを利用していたら、ケアマネジャーに聞くのもいいでしょう。「本人に聞く」以外に、状況を把握できるルートがあると安心です。
親子をはじめ、家族間のコミュニケーションは、それまでの積み重ねによるところが大きく、親が年を取ったからといって、その関係性は急には変えられるものではありません。この記事を読んでくださっているあなたに、家族の力になりたい、家族とのミスコミュニケーションを防ぎたいという気持ちがあるのだとしたら、まずはそれだけで素晴らしいことです。
そのうえでできることは、「私はあなたの相談にいつでも乗る」というアピールをしておくこと。往々にして、親は子どもに心配をかけたくないという思いから、困っていても黙っていることが少なくありません。そうならないためにも、「困ったことがあったら言ってほしい」ということを常に伝えておきます。
この際の言い方も、「言わなきゃわからないよ」「なんで言ってくれないの?」ではなく、「言ってもらわなかったら、私が後悔するから言ってね」「黙っていることが一番(私にとって)困るからね」と、私がお願いしているというスタンスで伝えるのも1つです。
そして何より大事なのは、そうしたことが言い合える関係を、お互いに元気なうちから作っておくことです。
老いによって身体機能や認知機能が落ちてくるのは、誰もが経験する道です。子がいつまでも元気な親の姿を追い過ぎるのは、ある意味では酷なことで、親の老化を認めたほうが優しくなれる場合もあります。老いを受け入れ、あたたかく見守る。それができたらよいコミュニケーションが取れると思います。
(構成:ライター・松岡かすみ)
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