この事態に対応するため、日銀は2016年9月、イールドカーブ・コントロールを導入した。長期金利が0%程度で推移するよう国債を買い入れ、下がり過ぎた長期金利を高くしようとした。つまり、このときには、イールドカーブの傾きを急にすることが目的とされた。
長期金利を操作するYCCの手法は、異例のものだ。長期金利は市場で決められるものであって、無理にコントロールしようとすれば歪みが発生する。
その歪みが、2022年には無視できなくなるまでに拡大した。2022年12月の決定は、このような市場からの圧力に対応するために、どうしても必要とされるものだった。
ただし、この引き上げだけでは不十分だ。12月の決定以降も、国債市場の歪みは残っている。YCCそのものをやめて、短期金利だけを操作するという伝統的な金融政策の手法に戻るのが望ましい。
日本経済の活性化は金融政策ではできない
賃金が上昇するには、企業の付加価値が増加しなければならない。それは、金融政策で実現することではない。付加価値増加は、企業や個人が努力して実現するものだ。
現在、アメリカを牽引している高度情報通信産業は、金融緩和政策によって成長したのではない。政府の補助金で成長したのでもない。企業の競争と、高度な専門教育による人的能力の向上によって実現したのである
台湾を成長させ、台湾の1人当たりGDPを日本より高くする原動力となったTSMCを中心とする半導体産業も、新しいビジネスモデルの採用と、世界的な分業体制のなかで成長したのである。こうした成長のための環境を準備することこそが、政府や日銀の基本的役割だ。
経済成長は、民間経済主体の努力の積み重ねと、マーケットにおける競争によって実現される。国や中央銀行が主導してそれを実現するという考え自体が、そもそも間違っている。
社会主義経済の崩壊という世界史上の大事件によって、世界は1980~1990年代に、このことを学んだ。しかし、日本は(そして、多分日本だけが)全く逆の方向に進んでしまったのだ。
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