「知床観光船事故」報告に思う「国の調査」の不条理 2008年犬吠埼沖の漁船沈没事故との大きな「格差」

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ところで、運輸安全委員会の事故調査は、犠牲者の数や船の種類によって“ランク付け”とも“格差”とも受け取れる状態になっていることをご存じだろうか。

運輸安全委員会事務局組織規則をひもとくと、第9条には次のように記されている。国のいう「重大な船舶事故等」とは、何を指すのかという定義付けだ。

第九条 国土交通省組織令第二百四十三条の八第一号の国土交通省令で定める重大な船舶事故等は、次の各号のいずれかに該当するものとする。
一 旅客のうちに、死亡者若しくは行方不明者又は二人以上の重傷者を生じたもの
二 五人以上の死亡者又は行方不明者が発生したもの
三 国際航海(一国の港と他の国の港との間の航海をいう。)に従事する船舶(総トン数五百トン未満の物の運送をする事業の用に供する船舶及び全ての漁船を除く。)に係る船舶事故であって、当該船舶が全損となったもの又は死亡者若しくは行方不明者が発生したもの
(四以降、略) 

死者・行方不明者に着目してこれらの条文を読むと、旅客の場合、死者・行方不明者が1人でも生じるか、または2人以上の重傷者が出ると、重大な船舶事故に該当する(第一項)。日本と外国を結ぶような国際航路の場合も死者・行方不明者が1人でも出ると、「重大」になる。ただし、国際的に運用されていても、漁船の場合は該当しない。

問題は漁船である。法律を読み慣れた方は、すぐにピンと来るだろう。漁船が該当するのは「第二項」しかないが、「五人以上の死亡者又は行方不明者」が出ないと、漁船の場合は「重大」にはならないと読み取れる。

人命に軽重はないはずなのに、なぜこんな“格差”が明文化されているのだろうか。

ほとんどの人は記憶していないと思われるが、2008年6月に千葉県の犬吠埼沖で起きた漁船「第58寿和丸」の転覆・沈没事故と比較してみたい。

「原則1年」を大幅に超過、内容も疑問符だらけ

事故が起きたのは、ちょうどお昼時だった。安全で安定性も高いパラシュート・アンカーを使って洋上で碇泊中、突然の2度の衝撃を受け、たった1~2分で転覆。1時間ほどで沈没した。乗組員20人のうち、17人が死亡・行方不明。3人が助かったのは、奇跡といってよかった。

この事故について、運輸安全委員会は法の求める「原則1年」という期限を大幅に超過し、最終の調査報告を出すまでになんと3年近くを費やしている。国会で明らかになったところによると、調査費用は200万円足らず。船体引き揚げに巨費を投じたKAZU Ⅰのケースとは大きな差がある。

しかも、第58寿和丸報告書の内容は疑問符だらけだったという。生存者の証言と報告書の描く状況がまったくといっていいほど一致しないうえ、現場海域を真っ黒に染めていた大量の油について、合理的な回答も示せていないというのだ。

第58寿和丸(写真提供:船主の酢屋商店)
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