なぜか「負けにくい人」がしたたかに実践する習慣 最強の囲碁棋士が語った「確実に勝つ」極意

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格下のはずの女流棋士相手に五十手を過ぎても互角では「おかしい……こんなはずでは……」と動揺してしまうということですね。こうした心理が良い方向に転がることは決してありません。

これは一つの例ですが、格下の相手と打つ時に一番良くないのは「早めに勝負を決めてしまおう」とか「相手はへぼなのに、なぜ互角なんだ?」といった心理状態になることです。

「負けにくいこと」とは「勝負を焦らないこと」なのです。

そしてそれはそのまま「下位相手に確実に勝つこと」につながります。少しでも力が上ならば、息長く打った方が、実力の差がはっきりと現れるのです。

陸上競技でも一発勝負の短距離走よりも、中距離走、長距離走の方が、番狂わせが起こりにくいと思います。また、どんなスポーツの大会でも、一発勝負のトーナメント方式よりも、試合数の多いリーグ戦の方がフロックは起こりません。一発勝負の高校野球よりも、プロ野球のペナントレースの方がチームの実力が現れます。

勝負に変化はつきもの

それは囲碁でも同じです。ほとんどの囲碁棋戦はトーナメント方式ですが、棋聖、名人、本因坊タイトルの挑戦者決定戦のような総当たりのリーグ戦の方が、その実力が反映されやすいでしょう。

このことは一局の対戦についてもいえます。

一局の碁における合計の平均手数は約二百手です。ということは、お互いだいたい百手ずつ打つ計算になります。下位の側からすれば、一局の中で百回、ミスをする可能性があるということです。

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これが半分の五十手だとしたらどうでしょう? 単純に考えるとミスをする確率も半分に減りますね。馬脚を現す前にミスなしで乗りきってしまうかもしれません。そうなると、番狂わせが起こる可能性が高まります。

一方、上位側が息長く打って総手数三百手の碁となり、下位側が百五十手を打たなければならなくなったとしたら? そうです、下位側がミスをする可能性が高まり、上位側が有利となるはずです。

上位者は、途中まで健闘されて形勢が互角だとしても、慌てて自ら動いたりせず、ゆっくりと息長く打ち進め「どこかで相手がミスをするのを待つ」くらいの気持ちで、悠然と構えていればいいのです。そのうち相手の方が我慢しきれなくなるでしょう。

勝負に変化はつきものですので、これはあくまでたとえでしかありませんが、息の長い碁が打てるように意識することは大切なことです。

繰り返しになりますが、高い勝率を挙げるためには、自分より実力が劣る相手に負けないことです。これをコンスタントに継続することは「自分より強い相手に一発入れる」ことよりも、遥かに難しいけれど、とても重要なことなのです。

張 栩 囲碁棋士

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ちょう う / CHANG, Hsu

1980年台湾生まれ。囲碁棋士。林海峰名誉天元門下。日本棋院東京本院所属。世界戦優勝。囲碁史上初の5冠(名人・王座・天元・碁聖・十段)達成、史上2人目のグランドスラム(7大タイトル制覇)、最高勝率で1000勝達成(日本棋院)。総タイトル獲得数41。ヨミの深さ、正確さに裏付けされた柔軟な発想と決断力を持つ。

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