最強の囲碁棋士が実践する「新年の目標」のたて方 超一流になるために行う「あたりまえ」のこと

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張栩さん(撮影:朝日新聞出版写真映像部・東川哲也)
天才集団と言われるプロ棋士の世界にあって、異次元の実績を持つ棋士がいる。「世界戦優勝。囲碁界初の同時5冠達成。7大グランドスラム達成。総タイトル獲得数41。史上最高勝率で1000勝達成」の肩書を持つ張栩(ちょうう)九段だ。
ふだんの彼は、驚くほどおだやかだが、ひとたび勝負となると、斬れば血の出るような鋭さと強さで対峙する。「直感は経験によって磨かれる」「負けにくいことは勝負を焦らないこと」「効率のいいものは美しい」……。実戦を勝ち抜きながら身につけてきた、勝つ技術、負けない技術は、われわれの仕事にも、人生にも効く滋味を備えている。今回は著作の『勝利は10%から積み上げる』から、「適切な目標設定」をご紹介します。

持続可能な目標設定

主な囲碁タイトルは、棋聖、名人、本因坊、十段、天元、王座、碁聖の七大タイトルです。それぞれ予選があり、挑戦者決定戦があり、挑戦手合(決勝戦)があります。挑戦手合は、主に「番碁」という方式で行われます。

全七戦中先に4勝した方が勝者となる形式を「七番勝負」といい、全五戦なら「五番勝負」と呼んでいます。ちなみに三大タイトルといわれる棋聖戦、名人戦、本因坊戦が七番勝負を、十段戦、天元戦、王座戦、碁聖戦が五番勝負を採用しています。

こうした番碁=タイトル戦は、連日のように対局して数日で勝負を決めてしまうのではなく、五番勝負なら約2カ月、七番勝負なら約3カ月をかけて行われます。ほぼ「3週間で二局」というペースで、これは大変な長丁場と言えるでしょう。一局ごとの間隔が、1週間から2週間空くわけです。この挑戦手合に加えて挑戦者決定戦もあるのですから、トッププロは年間を通してずっと対局がつくことになります。

このような長丁場において、すべての対局で同じようにコンディションを維持するのは容易なことではありません。例えば、年間1タイトルだけにするのであれば、目標がはっきりしていますので、それに向けて絞り込んでいけばよいのでしょうが、長期間となると工夫が必要です。

僕はその工夫の一つとして、年のはじめに目標を設定することにしています。

目標として意識するのは「名人を取る」とか「5冠を達成する」といったタイトルに関するものではなく、年間の勝ち星であることがほとんどです。

なぜなら、タイトル獲得を目標としても、タイトル戦のトーナメントは、一つ負けてしまえばそこで終わりです。つまり一つの敗戦で年間の目標が達成できなくなってしまうわけで、それではあまりにリスクが大きいのです。狙って取れるほど甘い世界ではありません。

そうではなく、「年間○○勝」を目指していれば、一つ負けたとしてもまだ目標達成は可能です。そして数字のクリアを目標として頑張っていれば、タイトルは自然と後からついてきます。そうやって自分のモチベーションを切らすことのないよう、自らを鼓舞しています。

その意味では「目標設定」も、一つのテクニックといえるかもしれません。ただこの時、その目標を常に適切に保つことが必要です。

次ページ目標は「簡単過ぎてもいけないし、難し過ぎてもいけない」
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