大阪市長選「ポスト松井」を懸けた前哨戦の意味 維新の「世代交代」と非維新「カジノの是非」

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だが、そうはいかなかった。公職選挙法で禁じる事前運動に当たる恐れから、街頭演説や電話調査など不特定多数を対象とする運動はできず、党内向けのイベントにとどまった。論戦といっても党の従来路線を引き継ぐのが基本で、候補者間で政策や主張の違いも見えにくい。結党時からの目標である都構想=大阪市廃止は、2度の住民投票否決を受けて今回は封印。既存政党や既得権益を敵と見なして攻撃する、いつもの維新流選挙とは勝手が違ったせいか、支持者の関心も低調だった。

スクリーンと登壇者
吉村知事(左から2人目)が出席した維新の予備選討論会。右端が大阪市長選候補となった横山府議(12月1日、大阪市内。撮影:松本創)

在阪メディアの報道も総じて抑制的で、記者たちに聞くと冷ややかな声が目立った。

「他党との公平性もあるし、コップの中の争いだからニュースバリューもあまりない。外部の有名人でも参戦すれば、もう少し注目されたかもしれないですが」(テレビ局デスク)

「外部選考委員の3人は維新と近いテレビコメンテーターばかりだし、動画はいかにも番組制作会社が作った身内ノリのバラエティ。正直、鼻白みましたね」(テレビ局記者)

「フェアで開かれた選考だとアピールしたいのでしょうが、維新は表面上の言葉やイメージと実態がかけ離れていることが、これまでも多かった。出来レースとは言わないまでも、結局は松井氏や吉村氏の思う本命に決まると思っていた」(全国紙記者)

こうした雰囲気の反映か、党員投票の投票率も39.10%(投票者数8535人)と盛り上がりを欠いた。議員以外の一般党員は34.18%とさらに低く、オンライン投票を導入したLINE会員も見込みほど伸びなかった。予備選期間中は「維新らしい挑戦」「政治革命」と喧伝していた吉村知事も、終了後の会見では「周知する難しさを感じた」「今後の選挙で常に予備選をやるのは難しい」と振り返った。

メディア効果を狙った顔見世興行としては、完全に不発に終わったのである。

「負けている側こそ戦略を持つべき」

ただし、今回の内容は別として、予備選というアイデア自体を「面白い」と評価する声もある。維新の選挙戦略に詳しい選挙プランナーの松田馨氏はこう語る。

「維新は大阪で圧倒的に強いにもかかわらず、常に危機感を持っている。改革政党を標榜しているからでしょう、飽きられてはいけないと積極的に新しいことをやろうとする。メディア利用に長けていると見られがちですが、彼らは自分たちの広報戦略は下手だと思っているんです。今までは橋下・松井・吉村各氏の発信力に頼ってきただけだと。

公選法の縛りもあって今回は低調に終わったとはいえ、有権者の関心を高め、投票率を上げるのに予備選の試みは悪くない。2021年の富山市長選では、自民党内で6人も手を挙げたため、分裂回避のために予備選をやり、候補者を一本化した前例があります。この時は地元紙が経過を連日報道し、関心が高まった。その結果、自民の元県議が維新の元衆院議員らに圧勝しています。

維新予備選の党員投票率が低かったのは、維新の看板がある限り、誰になってもそう変わらないという、ある種の信頼感も大きかったのでは。賛否はあるでしょうが、本来は負けている維新以外の政党こそ、こうした仕掛けを考えていくべきだと思います。候補者選びの段階から有権者が主体的に参加できれば、自分たちの代表だという納得感や選挙本番へのモチベーションも高まるはずです」

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