日本人が知らない"陰謀論"による国家転覆の危険 独「クーデター計画」の背景と日本での"現実度"
2022年12月7日早朝、ドイツで国家転覆を狙ったクーデターを計画したとして、25人が逮捕された。彼らは国会議事堂を襲撃し、首相を処刑する計画だったという。首謀者はハインリッヒ13世という貴族で、主要メンバーには現役の軍人や特殊部隊が含まれていたとして世界を震撼させた。
このテロ組織のメンバーは、アメリカに端を発する陰謀論組織「QAnon」や右翼過激派「ライヒスビュルガー(帝国市民)」などの陰謀論を支持する人物らで構成されていた。
筆者は、事件の直前にセキュリティ関連の任務でドイツに渡航し、日本でも駐日外交官らと意見交換をした経験から、今回の摘発について分析した。本件は、SNSによりドイツ国内外で勢力を増しつつある右翼過激派に自制を求めるためのドイツ検察当局による警告であったと考えている。つまり、ドイツ国内の右翼過激派の連帯を阻止する狙いがあった。
クーデターの背景にある「事情」
こうしたクーデターの動きには、2000年代から続く、ヨーロッパにおける中道右派政党の理念レベルでの弱体化と左派に対する失望が影響していると筆者は考える。
第二次世界大戦以降、ヨーロッパ政界の中道を担っていたのは、「キリスト教民主主義」だった。しかし、信仰の希薄化やEU統合が進むことによるナショナリズムの相対化といった趨勢(すうせい)を、むしろ中道右派勢力は推進する方向をとったのだ。これによって、中道右派政党の理念レベルでの弱体化が起こった。
一方で、左派的な再配分政策ではなく、「第三の道」として、規制緩和や経済自由化、ヨーロッパにおける統合の推進などを進めた結果、社会内部での経済格差が拡大。左派に対する失望ムードが漂った。
中道右派勢力が理念レベルで弱体化し、左派に対する失望が同時に進行したことで、2000年代後半から「既存政治勢力への反発」「反EU」「反グローバリズム」を掲げる「保守勢力」が活況を呈する。
例えば、キリスト教的価値観を前面に押し出した保守論壇誌『The European Conservative』が2008年創刊、EUに懐疑的な欧州議会グループである「European Conservatives and Reformists(ECR)」は2009年に設立 、ECRを支援するシンクタンク「New Direction」は2010年に創設された。
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