日本人が知らない"陰謀論"による国家転覆の危険 独「クーデター計画」の背景と日本での"現実度"

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そして、新型コロナウイルスのパンデミックが、その過激化と支持層の拡大に寄与している。アメリカのポピュリスト右派も事情は似通っているが、パンデミックそのものの推移への不安、ワクチンへの忌避感などを養分として、陰謀論がこうした反体制的右派に影響力を広げているのは、しばしば指摘されるところである。

日本で「陰謀論」が発端のクーデターが起こる可能性

では、日本ではどうだろうか。実は、政治レベルでの事情では似通った部分がある。2009年から2012年にかけての民主党政権の失速により、左派に対する失望感はいまだに強い。

一方で、中道右派政党の理念レベルでの弱体化はあまり見られておらず(むしろ理念を強化して自らの支持に利用した安倍晋三元首相によるところが大きい)、これが現時点では既存政体に対する信頼性を維持しているといえよう。ただし、今後、再び自民党への不満が広がれば、次は極右的ポピュリズムに注目がいく可能性はある。

そして、日本ではバブル崩壊以降、カルト宗教やライトなスピリチュアリズムの流行は絶えず起きており、文化的土壌はあるといえよう。

とはいえ、最終的に類似の事案が日本で起きるかといえば、筆者は否定的である。なぜなら、現時点では、自民党政権についての失望感が、たとえばオウム真理教事件のような動きを再び引き起こすほどのものとなっているとは思えない。

また、左派に左右の対立を激化させるほどの勢いがないということもある。立憲民主党、共産党といった左派政党は、いずれも現時点でそこまでの力があるとは見なしにくい。

一方、「ローンウルフ」型のテロについては、常時警戒が必要だ。すでに安倍首相銃撃事件により、その危険性が現実化してしまった。既存体制への不満が組織化されず、ローンウルフ化する恐れは、経済不況などが進めば現実の問題として現れてもおかしくない。

SNSで陰謀論など特定の思想を信じる人たち同士がつながりやすくなった事情は日本にも当てはまる。SNSは極端な意見が共鳴し合うこともあり、「コロナは存在しない」と接種会場に押し入った人たちがいたが、その中にはQAnonの信奉者もいたようだ。

QAnonの発信元「Q」本人ともいわれるアメリカ人が北海道に住居を持っているという報道もある。何らかのきっかけで求心力を持てば、日本でも世間に不満や不安を持つ人たちのグループが形成されることも考えられるだろう。

松丸 俊彦 セキュリティコンサルタント

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まつまる としひこ / Toshihiko Matsumaru

警視庁に23年在籍。2002年日韓共催W杯サッカー大会においてロンドン警視庁の特別捜査官と共にフーリガン対策に従事。在南アフリカ日本大使館に領事として3年間勤務。南アフリカ全9州の警察本部長と個別に面会して日本大使館と現地警察との連絡体制を確立し、2010年南アフリカW杯サッカー大会における邦人援護計画を作成。警視庁復帰後、主に防諜対策(カウンターインテリジェンス)及び在京大使館のセキュリティアドバイザーを担当。全155大使館を延べ1,200回以上訪問し、大使館及び大使公邸に対するセキュリティアセスメント(警備診断)、特命全権大使を始めとする外交官に対するセキュリティブリーフィングを実施した。

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