「自分は悪くない」と正当化する人の怖すぎる心理 被害者意識が強い〈例外者〉という存在

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

Iさんの話を聞くと、〝辛抱料〟と割り切り、これも給料の一部と思って我慢するには、社長の一連の言動、とくに暴言は度を越している。その一因として、「これくらいは許されてもいいはず」と正当化するところが社長にあるからではないか。

この社長は、世間から見れば成功者の部類に入るが、実は子どもの頃に父親が借金を作って蒸発したとかで、母子家庭で育ち、かなりお金で苦労したらしい。そのせいか、若い頃は相当あこぎなこともしていたようで、毎週の〝ミーティング〟でも「金儲けのためなら何でもしてきた」と豪語し、同じようなことを社員に推奨するという。

そういう話が延々と続くので、法に触れるようなことまでやらされるのではないかとIさんは不安になるそうだ。それが強いストレスになり、心身のさまざまな症状が出現しているようにも見受けられる。

「裏返しの特権意識」

この社長のように、幼少期に貧しい家庭で育った人が、大人になってから金銭に異常に執着し、金儲けのためには手段を選ばず、「金にきたない」と言われるようになることは珍しくない。こういう人も〈例外者〉であり、自分がこうむったと感じている不利益に対して損害賠償請求をしたいという気持ちが非常に強いと考えられる。

自己正当化という病 (祥伝社新書)
『自己正当化という病 』(祥伝社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

もちろん、自分が〈例外者〉であることを要求する理由として挙げる体験や苦悩には、同情すべきものが多い。ただ、自分がこうむった不利益に対して損害賠償請求をしたいという気持ちがあまりにも強いせいか、「自分はこんなに不利益をこうむり、大変な目に遭ったのだから、これくらいは許されてもいいはず」と考え、自分が例外的な特権を要求することを正当化しがちである。

こうした正当化からは、「裏返しの特権意識」とでも呼ぶべきものが芽生えやすい。これは、他人が遠慮するようなこと、あるいは通常はばかられるようなことでも、実行する権利があるという思い込みにしばしばつながる。その結果、暴走することもあるが、たとえ不正を働いても、他人を傷つけても、自分が悪いとは思わない。

このように罪悪感も良心の呵責もない人は、自己正当化という病に侵されやすい。こういうタイプが最近増えているので、実に厄介だ。

片田 珠美 精神科医

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

かただ たまみ / Tamami Katada

広島県生まれ。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。京都大学博士(人間・環境学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。2003年度~2016年度、京都大学非常勤講師。臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。著書に『他人を攻撃せずにはいられない人』(PHP新書)、『賢く「言い返す」技術』(三笠書房)、『他人をコントロールせずにはいられない人』(朝日新書)など多数。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事