バフムト攻防戦は今後どう展開するのか。本稿執筆時点で筆者は明確な見通しを示せないが、ウクライナ軍は慎重ながらも、最終的な撃退に自信を見せている。
2022年12月半ば、イギリスメディアに対し起死回生に向け新たな軍事行動を始める可能性について警告を出したのはウクライナ軍のザルジニー総司令官だ。クレムリンは2022年9月の部分動員令で集めた動員兵約30万人のうち、一部は十分な訓練をしないまま戦場に出した。しかし約20万人をベラルーシで訓練している。2023年1月末から3月にも、その部隊をウクライナに侵攻させ、キーウ再攻撃を試みる可能性があると警告したのだ。
今のところ、この警告を裏付けるロシア軍の動きは確認されていないし、軍事筋は戦闘経験の少ない動員兵だけの部隊でキーウに再攻撃を掛けることは事実上ありえないと指摘する。なぜなら、再侵攻する場合、動員兵部隊には正規軍部隊の支援が必要になる。
しかし、ただでさえ兵力不足のロシア軍が、バフムトなど他の戦線から正規軍を応援に出すのは極めて困難だから、という。それでもウクライナ軍は念のため、再侵攻に備えて2023年1月に追加的な動員を行う予定だ。
南部要衝メリトポリの奪還作戦
一方、兵力でロシア軍を上回るウクライナ軍は優先度が最も高い新たな反攻作戦の準備を着々と進めている。南部ザポリージャ州の要衝メリトポリの奪還作戦だ。早ければ、年内のうちにも始まる可能性がある。
この反攻作戦は本来であれば、2022年11月末までに始まると見られていた。しかし結果的には1カ月遅れが生じた。これは先述した、バフムト防衛のために火力を回したことなどが大きい。秋の長雨など気象条件のせいだとウクライナ側は表向き説明するが、実際はこうした戦闘状況の変化が最大の要因と筆者はみる。
「クリミアの玄関口」とも呼ばれるメリトポリは、いくつか大きな機能を担う要衝中の要衝だ。反攻作戦が始まれば、ウクライナはハイマースで集中的に攻撃を加えることになろう。
メリトポリ作戦でのポイントはもう1つある。地元住民によるパルチザン活動だ。ウクライナは8年前のクリミア併合の際に密かに各地の住民に武器を残して、パルチザン攻撃の準備を整えていた。中でもメリトポリを含めザポリージャ州はパルチザン組織が強いという。ウクライナ軍はパルチザンと協力して攻撃することになろう。
メリトポリを奪還できれば、ここが南にあるクリミア半島への一大攻撃基地と化す可能性が高い。ありうるシナリオは、クリミア半島の入り口付近をハイマースで砲撃し、クリミア大橋をドローンで攻撃するという作戦だろう。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら