日本に欠けている「子を虐待した親」支援の仕組み 「子育てをやり直したい」という親も少なくない

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児相が子どもを保護する時は、父母の関係、親族支援、子どもの心身状態、親子関係、生活状況、経済状況、父母の疾病など、家族状況をあらゆる角度からアセスメント(調査・分析)していく必要があります。

限られた時間で子どものリスクアセスメントがどこまでできるのかを、迫られます。リスク要因が残っているのなら、子どもを何としても守らねばならないのです。しかし、親はその時にはすでに戦闘モードとなり、対話することも難しい状態であることがよくあります。保護という権限の行使と、支援という2つの相反する機能を持ちつつ、親子への支援をする児相の役割の難しさを感じます。

これまで一時保護解除後に死亡する重大事件に関して、「なぜ子どもを守れなかったのか」と児相の責任が追及される状況を想起される方も多いと思います。親権者である親の意向に沿う形で家庭引き取りが行われ、子どもの声は届かなかったというケースも目にします。

「親子分離」の判断の難しさ

一方、一時保護開始決定に対する親からの取消訴訟も起こっています。児相の判断ミスにより、親子分離が強いられたことで、子どもの発達や親子関係に影響を及ぼし、子どもの権利侵害となった、というものです。

待ちに待って生まれた赤ちゃん。その赤ちゃんの不慮の事故が発端となり、「虐待の可能性がある」として突如保護されることになったら……。親は「虐待者とされ、子どもを奪われ、世間からも阻害される」のです。そのような状況で、子どもとの生活をやり直していくにはどれだけエネルギーがいるでしょう。

この一時保護をめぐっては、2022年児童福祉法改正により、今後は、児童相談所が虐待を受けた子どもを保護者から引き離す「一時保護」の開始の際に、親の同意がない場合には、独立性、公平性、中立性を有する裁判所が必要性を判断する「司法審査」が導入されることになりました(2022年6月成立 2024年4月施行)。

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