日本に欠けている「子を虐待した親」支援の仕組み 「子育てをやり直したい」という親も少なくない
今後、児相の権限集中が避けられること、親権者の主張を司法が判断することで、親と児相との対立関係に伴う双方の負担が軽減されることが期待されます。
実際にはその手続きに伴う児相の事務負担の増加などを想像すると、危惧される点も多くありますが、「何のための一時保護なのか」ということが、親や子どもにとってクリアになることが望まれます。
「子育てをやり直したい」という人へのプログラム
私たちのNPOでは児童相談所等の委託を受け、2007年度より親子関係再構築のために「CRC親子プログラムふぁり」(以下プログラム)を提供しています。プログラムの対象は虐待をした親とその子ども(乳幼児~小学校低学年)であり、約9割の子どもが一時保護を経て、施設入所中、もしくは里親委託中です。
このプログラムの対象者になるのは困難を抱え、分離という厳しい結果になったけれど、子育てをやり直したい、いい親になりたいと思っている親御さんたちです。
これまで250組以上の親子に出会ってきました。親と子どもに直接働きかけるということが、このプログラムの最大の特徴といえます。国内では親向けのプログラムは多くの支援団体で実施されていますが、親と子の両方に焦点を当てたプログラムは少ないのが現状です。
また、このプログラムでは親子の交流時間にスタッフも共に過ごすのですが、そのようなことは通常あまりなされません。親子一組ごとに、個別に実施していることも特徴の1つです。
前述したように、この活動を始める前、私は某自治体の児童相談所の児童福祉司でした。そこでは子どもを虐待する親への支援は容易ではありませんでした。理由の1つは、児相が家庭に介入し子どもを保護し、子どもの処遇を決める強権的な役割を持つことにあります。その「権力」が親との協働作業を行う際の障壁となるのです。
自分たちの今後の処遇を決める機関の人を相手に、はたして、親は本音を話せるでしょうか。児相のこういった介入的支援は、右手で握手、左手で殴り合うとも例えられています。
親子の再統合のプログラムが整備されていなかったもう1つの理由は、当時は緊急対応が優先されていたことです。親子関係再構築に特化した専門的な支援体制は整っていませんでした。
親子への支援を行うためには、一定の専門的理論や技術の習熟が不可欠です。しかし、子どもの安全が最優先となる児童相談所では、定期的な面接さえ十分に行う余裕がなく、虐待再発防止や親子関係再構築の支援を求める親子のニーズに応え、専門的な支援を提供することは困難な状況でもありました。
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