「音楽映画」が驚くほど増え続けている切実な事情 「ビー・ジーズ」から「ホイットニー」まで多様

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そして彼らは音楽・映画といった娯楽に、その対価としてお金を払うことが普通の世代。映画を観て気に入ったらDVDやブルーレイも購入するだろう。今後、映画館へ行くことへの(感染問題からの)抵抗が減っていけば、観客は増加すると期待したい。彼らの影響で音楽好きになっている子ども=20~30代あたりの層も一緒に足を運ぶのではと楽観している。

「コンサート料金の高額化」という痛い問題

さらに、これは残念な理由ではあるが、上映への追い風となると思われるのが、コンサート料金の高額化だ。とくに来日ミュージシャンの場合は交通費・滞在費の高騰などもあり、数年前とは比較にならないほど価格が上がった。「行けない」あるいは明確なNOとして「行かない」というファンがこれから増えると思う。

そんな彼らが映画館に足を運ぶようになるのではないだろうか。筆者もきっとその中の1人となる。座ったままでいいという、高齢者には願ってもない形でのコンサート鑑賞も可能となる。

音楽映画、とくに伝記映画やドキュメンタリーは、大まかなプロフィールを知るいい機会だ。それを「映画を1本観ただけで知った気になる輩が増える」と受け取っての批判もあろう。

確かにミュージシャンなのだから、まずは音からというのは同感だ。また、歴史観を恣意的に偏った(とくに生存メンバーに対して)形にする傾向もなくはない。しかし「まずはベスト盤から」のビジュアル付随版であると捉えれば、初級者が知るきっかけとしては悪くないと考える。少なくともインターネット上でのタダ聴きタダ見タダ読みで知った気になるよりもずっとましなのではないか。

たったの2時間に詰め込まれた数十年間のダイジェストを目にして、その先への関心をもった方に対しては、心の中に「ようこそ」の横断幕を掲げて迎えたい。それこそ映画になるほどの豊富なキャリアの持ち主なのだから。

高齢者が足を運ぶことを料金体系として歓迎している映画館。音楽ファンとしてそれを使わない手はない。リバイバル上映も含め、今後も上映作品が増加することを願う。

人見 欣幸 音楽紹介業

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ひとみ よしゆき / Yoshiyuki Hitomi

1967年神奈川生まれ。文章、ラジオ、ライヴハウスでのトークなどを通して音楽を紹介している。ブログはこちら

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