「音楽映画」が驚くほど増え続けている切実な事情 「ビー・ジーズ」から「ホイットニー」まで多様

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ヘッドフォンや小さなスピーカーでは味わえない、身体中で味わう「サウンド体験」としての音楽がそこにはある。小さなスピーカーやヘッドフォンが聴取手段の主流となっている現代と違い、居間のステレオ・スピーカーや部屋のラジカセで、音を「浴びる」のが普通だった(それしか方法がなかった)世代が現在の50代以上にあたる。

その層が自宅・自室の環境に物足りさなさを感じ、満足のいくサウンド体験を求めて映画館へ向かうパターンはあると思う。その快感を若年層にも(ライブ会場以外でも)味わってもらえたらと願う。

「関係者の高齢化」という切実な問題

音楽映画、とくにドキュメンタリーが多く作られている理由は、関係者の高齢化という切実な問題もある。不謹慎な表現となってしまうが、存命のうちに当事者の証言を残しておきたいという制作側の思いがある。監督ほかスタッフの多くは、その主役であるミュージシャンのファンである場合が多い。彼らへの恩返しとして、そして後世に伝える資料として映画を作りたいのだ。

来日公演がご無沙汰の(または来日自体がない)ミュージシャンの疑似ライヴ体験になることも大きい。ライヴ活動や世界ツアーをやめると宣言している高齢ミュージシャンも当然のことながら多くなってきた。

そんな彼らが地元で行うコンサートを、パブリック・ヴューイングや劇場公開で体験するため映画館へ行くという形は常態化するのではないだろうか。もちろん亡くなったミュージシャンや、現在とは違う初期/全盛期ラインナップでのパフォーマンスを体験できる機会でもあるだろう。

そう考えた場合、なんのことはない、この現象は、来日公演が少なかった時代に各地のコンサート・ホールで行われていた「フィルム・コンサート」の復活でもある。

そして、高齢化といえば観客=ファンのそれにも触れないわけにはいかない。彼らは60代が中心、つまり高齢者値引きが適用されるのは映画業界としては好都合(近年カップル割・夫婦割を実施している映画館が激減したのは残念)の層である。

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