20年で市場60%減!「日本のスキー場」逆転の秘策 スキー場で「夏にも稼ぐ」逆転ヒットの根本発想

拡大
縮小

こうした再定義に基づき、私たちが目指すべきゴールを「世界水準のオールシーズン・マウンテンリゾート」と定めました。これには以下の3つの意味があります。

① 世界水準
国内市場の縮小が不可避である以上、世界中から山岳リゾートで時間を過ごしたいと思う人に来ていただくようになることが不可欠。そのためには、すでに世界水準と呼べる眺めや雪などの自然由来のものだけではなく、施設やサービスといった、ともするとここ数十年間置き去りにされつつあった要素についてもしっかりと世界水準なものになっていかないといけない。
② オールシーズン
冬に頼ったスキー場ビジネスからの脱却、という意味でいちばん大事なのは、1年を通じてお客さんに来てもらえるコンテンツをしっかり持つこと。この要素がないと、地域全体が豊かに、元気になることは無理なので、ある意味最も優先順位が高い。
③ リゾート
私たちが目指すのは単に「スポーツをする場」としての「スキー場」ではなく、非日常的な時間を非日常的でおしゃれな空間でゆったりと過ごしてもらうための場所。海で泳ぐための場としての「海水浴場」とビーチサイドでゆったりと時間を過ごす「ビーチリゾート」が、仮に海沿いの場所としては大きく変わらなかったとしても想起される姿がまったく違うように、スキー場とスノーリゾート、もしくは通年化という意味でのマウンテンリゾートとは、お客さんに過ごしてもらう時間・空間の質は変わってこないといけない。

「夏に稼ぐスキー場」誕生

元官僚46歳『夏に稼ぐスキー場』を生んだ逆転人生」でご紹介したグリーンシーズンの魅力増強に向けた各種取り組みは、まさにこのビジネスの再定義と目指すべきゴールに従って出てきたプロジェクトです。

このように明確な(ある程度正確な)ビジネスの定義とゴールに従って再出発したからこそ、私たちが活用すべき「隠れた資産」の洗い出しも進み、しっかりとした結果を残せたのだと考えています。

例えば、THE CITY BAKERY 白馬店を併設した北アルプスの絶景を眺める展望施設「白馬マウンテンハーバー」

これは、スキー場として冬だけビジネスをやっていては呼べないお客さんを呼ぶために、これまで有効活用されていたとは言えなかった「山頂からの絶景」という隠れた資産に光を当て、マウンテンリゾートの目玉施設となるような取り組みとして建設を進めたものです。

グリーンシーズンのスキー場に多くのお客さまが訪れるきっかけとなった「白馬マウンテンハーバー」(写真提供:白馬マウンテンリゾート)

開業した2018年10月からの1カ月間で、それまでのグリーンシーズントータルの来場者数を超える3万人を集客する結果につながりました。これはまさに「スキー場ビジネス」の発想からでは決して出てこなかったアイデアだと実感しています。

苦しい産業にいる人たちは、私たちのように「ビジネスの定義」をもう一度見直すことで、生き残りを図ることができるかもしれません。

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和田 寛 白馬岩岳マウンテンリゾート代表

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わだ ゆたか / Yutaka Wada

1976年生まれ。東京大学法学部卒業後、農林水産省、ベイン・アンド・カンパニーを経て、2014年に白馬で働き始める。

2016~17年の記録的な少雪でスキー場の来場者が激減したことを受け、白馬岩岳マウンテンリゾートの経営者として冬期のスキー客だけに頼らない「オールシーズン・マウンテンリゾート」を目指した改革に取り組む。革新的なアイデアを次々投入した結果、2019年にはグリーンシーズンの来場者数がウィンターシーズンを超え、収益も改善。2022年には18万人(2014年比818%)を超える見込み。

その活躍が大きな話題となり、わずか4年で「ガイアの夜明け」「ワールドビジネスサテライト」など100を数えるテレビ番組に紹介される。

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