防衛費の財源を「増税」で賄うのは不可能なワケ 資本主義以前の「前近代的な発想」をやめる

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以上が貨幣循環理論による説明であるが、ちなみに、MMTの場合は、政府と中央銀行を合わせて「統合政府」と理解したうえで、基本的に同様の説明をしている。

(出所:筆者作成)

いずれの理論も、信用貨幣論という正しい貨幣理解に基づいて、資本主義の基本原理を説明しているのである。

防衛費の安定財源は防衛需要

さて、この資本主義の基本原理を踏まえたうえで、昨今の防衛費をめぐる財源の議論を振り返ってみよう。

防衛支出の財源として、増税が検討されている。しかし、貨幣循環を理解していれば、防衛支出という政府の需要こそが財源、すなわち「貨幣を生み出す源泉」であることがわかるであろう。むしろ、税は、安定財源どころか、財源(貨幣を生み出す源泉)にすらなりえない。

防衛費の安定財源とは、防衛需要である!

資本主義の仕組みを理解していれば、これが結論になるのである。

銀行制度の存在しない資本主義以前の社会であれば、封建領主は、防衛支出の財源を確保するために、増税によって、人民のもつ財産を没収して防衛費に充てるしかなかったのかもしれない。

しかし、銀行制度が完備された資本主義においては、政府(と中央銀行)は、防衛支出という需要に応じて、新たに貨幣を創造することができるのである。

要するに、増税や歳出削減によって防衛費を確保しようとする考え方は、資本主義以前の前近代的な発想に基づいているということだ。

政治家の果たすべき最低限の責任

さて、稲田議員は、防衛費の財源を国債の発行に求めるのは無責任だと主張し、増税を容認した。

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残念ながら、稲田議員の政治家としての責任感は、資本主義以前の、前近代的な封建領主のそれである。

まずは、資本主義や貨幣について正しく理解するのが、政治家の果たすべき最低限の責任というものだろう。

拙著『世界インフレと戦争』では、貨幣循環理論以外にも、インフレや戦争など、現下の危機に対処するうえで不可欠な理論をいくつも動員している。

前近代的な政治経済観を抱いたままで、この過酷な世界を生き残れるはずもないからである。

中野 剛志 評論家

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なかの たけし / Takeshi Nakano

1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『奇跡の社会科学』(PHP新書)などがある。

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