平均年収で「毎月10万円赤字」じっとしている日々 団塊世代が気づいた「子が貧しく孫ができない」

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日本経済の衰退を実感する人は最近増えているのだろうか。

「コロナ禍による所得格差の拡大や、最近の円安がきっかけで気づく人はいると思います。特に最近の物価上昇によって初めて自覚する人も多いのではないでしょうか」

小林さんは、「団塊世代が定年退職後に就職氷河期世代の非正規雇用の問題に気づき始めた」という。

「団塊世代は高度経済成長期の日本を生き、若者の非正規雇用などの問題に対して『努力が足りない』と切り捨てることが多かったのですが、やっと気づく人が増えてきました。なぜなら、彼らに孫ができないからです。格差社会の影響で自分達の子供の収入が低く、生活が苦しいから出産をためらう。そこに問題の本質があることを理解し始めています」

これまで、非正規雇用や横ばいの賃金の問題は自己責任論で片付けられがちだった。しかし小林さんは、自己責任論には限界があり疲労感が現れ始めているという。日本人が自己責任論から脱却し、正面からこの問題に向き合うためには何が必要なのだろうか。

「自己責任論については様々な見方がありますが、2001年からの小泉純一郎政権下で竹中平蔵氏が新自由主義の世界を作ろうとする中で労働者の間にまで広まっていきました。政府があらゆる業種で派遣労働を認めたことで非正規雇用が増え、正社員になった人が勝ち組で非正規は負け組と言われるようになった。その構造を作り出したのは政治なのです。

自己責任論から抜け出すためには、どんな政策が行われてきたのか、その結果何が起こったのかを知ることが大切だと思います。それを知ることで自己責任論では済ませられないと、改めて理解できると思います」

就職氷河期世代の高齢化で、生活保護費は27兆円以上に

就職氷河期世代の多くが非正規雇用で働かざるを得ず老後に不安を抱えている。この問題を放置した場合、彼らの多くが生活保護受給者となり財政が圧迫される可能性があるという。

「日本総研の下田裕介主任研究員の試算では、就職氷河期世代のうち高齢貧困に陥る可能性があるのが約135万人。その生活保護費が約27兆5000億円に上るとされています。日本の財政破綻を招きかねない金額です」

それを避けるためには、彼らの雇用問題に正面から取り組むしかない。しかし2019年に政府が就職氷河期世代の就労支援を始めたとはいえ物足りなく、「まだ真摯に対処しているとは言えない」と小林さんは指摘する。

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