平均年収で「毎月10万円赤字」じっとしている日々 団塊世代が気づいた「子が貧しく孫ができない」

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なぜ、今の日本では平均年収で中流の生活ができないのだろうか。

「日本の経済が成長していないこと、賃金が横ばいで、スキルアップしても収入増に繋がらないことが大きいと思います。国税庁の調査で1997年と2021年の40代男性の年収を比べると、年間60万円以上低くなっています」(小林さん)

日本人の給与が世界の水準から取り残されていることは著書でも指摘されている。

「日本の賃金は約30年ずっと変わらないまま。経済協力開発機構(OECD)の2020年の調査で、物価水準が考慮された『購買力平価』を見ると、1ドル=110円で 計算した場合の日本の平均賃金は約424万円で、35ヵ国中で22位だった。1位の米国は763万円で大きく差がついた。 韓国は2015年に日本を抜いている。」

かつては経済大国だった日本が成長できなくなったのはなぜか。その要因には、企業が人件費削減を優先し、1999年の労働派遣法改正を一つの契機として非正規雇用を増やす政策がとられたこと。それによって収入格差が拡大し、中間層が崩壊したことがあるのではないか。

小林さんは取材を重ねる中で、今の日本経済の衰退を見抜いていた経営者に出会っている。伊藤忠商事会長だった丹羽宇一郎氏だ。丹羽氏は2005年1月4日号の週刊『エコノミスト』でこう語っている。

「富(所得)の2極分化で中間層が崩壊する。中間層が強いことで成り立ってきた日本の技術力の良さを失わせ、日本経済に非常に大きな影響を与えることになる。中間層の没落により、モノ作りの力がなくなる。同じ労働者のなかで『私は 正社員、あなたはフリーター』という序列ができ、貧富の差が拡大しては、社会的な亀裂が生まれてしまう」

丹羽氏は当時から所得格差の拡大に強い危機感を抱いていたのだ。

経団連も中間層の没落に危機感

小林さんは、中間層の没落が人々の心の余裕も失わせたと考えている。

「政府が給付金を出すと飛びついてしまいがちですが、財源はどうなっているのか、本当に困っている人を助けることに繋がるのか疑問を感じることはないでしょうか。物事を広い視野で捉えたり、他人のために考えられる余裕が失われていると思います」

2022年、経団連は「中間層復活に向けた経済財政運営の大転換」という報告書を出している。日本経済の低迷の根本的問題は中間層の衰退と需要不足にあり、それを改善するために積極財政を求めるものだ。

「非正規雇用を増やし、所得格差を拡大する要因を作ってきた経団連が、ここに至って中間層の復活を訴えるようになった。皮肉なことです。このままでは本当に日本経済が立ち行かないと、現実的に捉え始めたのだと思います」

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