医師が「医療は配管工事と同じ」と教える納得の訳 自然を深く知ることで治療方法が見えることも

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循環する旅の第2章は、細い静脈の流れで始まる。その流れは次々に合流して、より太い血管を流れていく。前腕を走っている青みがかった血管は、手とその筋肉、骨、腱、皮膚が出合った地点から流れ出たごく小さな流れが合流したものだ。

人体のどの部分も、血液の流れ同士が合流するために必要だ。ちょうど地面に落ちる雨の一滴一滴が、やがてひと筋の流れを作るように。そして、人体の地形図でもっとも遠い場所から出て酸素を使い果たした血液は、人体でもっとも大きな静脈の川、大静脈に流れこんでいく。

人体の血管は地球上の川と同じく活力にあふれ、自ら軌道修正して慢性的な障害物を迂回することができる。例えば冠動脈疾患がある人々には、長年のうちに迂回路ができることがよくあり、それによって血液が細胞まで流れていくことが可能になる。

川は岩によって流れをせき止められると、やがて岩を迂回する新しい流れを見つけるが、それとまったく同じように、人体の心臓血管系は血液の流れのために新しい流れを作り、古い流れは三日月湖のように取り残されるのだ。

配管工の考え方を医療に取り入れる

人体についての見識をより深めるために、わたしは配管工の考え方を取り入れることにした。あるとき、病院の一部で水道が完全に止まったという連絡があった。メンテナンス責任者は病院内の配管を1本残らず熟知していて、どこに詰まりが生じているかを推測できた。

彼の予想どおり、問題の病棟に供給している管が本管から分岐する箇所で、原因を発見した。バルブが故障したので流れを管理しているゲートが閉まり、心臓発作の血栓さながら完全に水を止めてしまったのだ。心臓ステントのようにバルブ交換によってその病棟への水流が回復し、問題は解決できた。医師と同じやり方で配管の問題を解決したのだ。

病院の配管の分岐点と同じように、人体における分岐点は臓器とそれに接続する血管系から構成されている。人体の血栓を治療するとき、わたしは彼とまったく同じように考える。冠動脈の支流の中で血栓が作られているなら、その支流が栄養を運ぶ細胞だけ血流が遮断され、心臓の残りの部分は健康な血流を受け取っている。

しかし、それを解明するのは簡単ではない。心臓は肉と骨でできた不透明な胸壁で隠されているので、さまざまな場所にいる同僚に蛇口をひねってみてくれと無線で連絡したり、給水設備室に入っていったりすることはできない。そこで心電図が役に立つわけだ。心電図は心臓の中をのぞき、その中の蛇口を確認するための手段なのだ。そして、心電図の解釈をするためには、流域を理解する必要がある。

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